ゲームにおける体験版の意義について

当たってるか分からない偉そうなコラム。

最近は据え置き機だけではなく携帯機でも体験版が配信されるご時世ですが、それもこれもインターネットの加速的な普及と、記憶メディアの小型化が合わさって初めて可能となったトレンドです。ネットを介して様々なゲームの体験版をユーザーの思うままにダウンロードして遊ぶなんて、一昔前までは考えられないことでした。

ちなみに体験版の歴史は古く、CD-ROMをいち早く導入したPCエンジンでは幾つかのタイトルが体験版単体として流通していたそうですが、その後の体験版で代表的なものは、なんといっても『ファイナルファンタジー7』が挙げられるでしょう。次世代機移行による開発費の高騰は、旧スクウェアのプロモーションに新たな手法を生み出しました。それは、全く別の新作ゲームソフトに開発中のタイトルをバンドルする、という荒業です。新作なのに何だかおまけ扱いされてしまった『トバルNo.1』は、それでも何だかんだで60万本以上のセールスを記録しました。物の見方としては、60万人以上の人に『FF7』を触ってもらったと同時に、『トバルNo.1』自体の売り上げが上がったとされるならばプロモーションという観点からは成功と言えなくもないでしょう。

しかし、現代でこんなことをすれば痛烈な非難を浴びて企業イメージを損なうことに繋がるし、何より合理的ではない。今世代のコンシューマ機では各々のネットサービスが形成されており、体験版やDLCなどを配信する土壌が出来上がっています。ユーザーとしてもゲーム機をネットに繋げるハードルは下がっていて、だからこそメーカーはそこにビジネスチャンスを見出すことが出来る。当然ハードが流行ればネットサービスも流行る。自然な成り行きです。

だからなのか、体験版の存在が当たり前となった今日では、「良い体験版」と「悪い体験版」の区分が水面下で出来上がっているように思えます。その良し悪しの判断基準をどこに置くのかということに関しては後述するとして、とりあえず僕が感じたタイトル群を列挙してみましょう。

まず前者ですが、最近遊んだものでは『ブレイブリーデフォルト』が挙げられます。あれはホントに良い体験版です。ちょっとスクエニに感心した瞬間。ちょっとだけね。あとは『ゴッドイーター』なんかもありましたね。あれも非常に良かった。『ルートダブル』もおそらく良いと思いますが、まだ判断仕切れない部分はあります。

それでは後者に関して。これはまず『NEWラブプラス』がブッチギリです。次点で『エンドオブエタニティ』。あとは『ファイナルファンタジー14』も忘れてはいけないところでしょう。

さて、この二つのグループの違いはどこにあるのか。色々な見方があると思いますが、僕は次のように考えました。それは、配信後にユーザーの意見を反映させているか、すなわちフィードバックがなされているか否かです。『ブレイブリーデフォルト』にしても『ゴッドイーター』にしても、その配信にはプロモーションと同時にユーザーの意見を取り入れるという狙いが明確にありました。配信後に感想フォームを設置し、ユーザーの真摯な意見を目の当たりにすることでゲームの出来にブラッシュアップをかけていく。これが可能となったのは先述のコンテンツを配信する土壌が出来上がったことに起因しており、まさにこの「良い体験版」とはユーザーと共に開発することに重きを置いた新時代のゲーム制作ツールです。

これはプロモーションとしても絶大な効果を持っていて、まずは企業イメージが上がります。大人の事情を感じさせない柔軟なゲーム開発現場には当然多くのユーザーが期待し、有名タイトルには特にそれが顕著です。次に、体験版の感想まで求めてくるタイトルは基本的に印象に残りやすい。そもそも論としてゲーム自体の面白さが重要なのは言うまでもありませんが、+αの施策としてユーザーにもう一歩寄り添ってみると、そこに他タイトルとの差異が生まれます。そして、ゲーマーは割とそういうところに敏感に反応する。あの開発陣は何か他と違うぞ、体験版は無料だしプレイしてみようかな、と新たな入口からお客さんをゲットできる。それが口コミで広がれば、ライトな層にも波及していく。その成功例が『ゴッドイーター』です。

これが、「悪い体験版」では基本的にできていない。というか、『NEWラブプラス』にしても『EoE』にしても『FF14』にしてもそれ以前の問題で、特に『NEWラブプラス』と『FF14』に関しては詐欺なレベルです。まず『NEWラブプラス』に関して言うと、なまじモデリングの出来も良く見た目完成度が高そうなので多くのユーザーが期待しましたが、その実態はバグだらけのお粗末極まりないもので結局回収騒ぎとなりました。体験版配信以前の問題で、もっとやることあっただろうと。体験版がもはや釣りの道具に成り下がってしまっているのがひどい話です。そして、これは『FF14』にも言えます。あれはオンラインゲームなので厳密にはβテストと呼称しますが、まあそれはいいとして、本来そのβテストは件のフィードバックを募るもののはずなのにそれが全くできていないのが信用失墜に繋がりました。大人の事情にがんじがらめに捉われた結果、『FF』という看板タイトルを背負ってなお自爆したというもはやジョークみたいなお話。信頼は積み上げるのにはとても時間がかかるけど、失う時は一瞬なんです。それを身を持って体現したスクエニに、かつてのような輝きはありません。今の『FF14』は頑張ってると思いますけどね。でもここで褒めてしまうと一般的に良しとされる製品レベルをまた確実に見誤りそうで怖いから、何も言わないことにします。むしろ必死でいて下さい。

まあこの二つに関してはフィードバック云々以前の問題でした。それでは『EoE』はどうだったのか。『EoE』と言えば発売後も口コミでその面白さが広がり、新作としてはスマッシュヒットを記録した実績のあるタイトルですが、こと体験版に関してはやり方が上手くなかったと言えるでしょう。複雑な戦闘システムを有しているという自覚があったにも関わらず、体験版にはチュートリアルが搭載されていない。フィードバックなんぞさせる気もなければ、そもそも遊ばせる気がない。プロモーションの時点で失敗、というよりもむしろ自分で自分の首を絞めています。不親切すぎる体験版は、ユーザーを白けさせるには十分です。もしここで正しい形の体験版を配信できていたら、『EoE』には更なる飛躍を可能にした未来があったかもしれない。たらればを言っても仕方ないですが、そう言いたくなるほど残念な体験版でした。

さて、ここまで語っておきながら元も子もないことを言うと、体験版の良し悪しだけで売上が劇的に変わるケースは少ないと思います。むしろ大事とされているのは何よりもゲーム自体の出来、そして如何にユーザーに訴求していくかのプロモーションです。まあそのプロモーションの枠に体験版も入ってくるわけですが、僕が言いたいのは、こだわりが見える体験版はその場限りのプロモーションだけに終わらないということです。フィードバックを積極的に促す体験版を配信したタイトル、及び製作会社は、そこにユーザーの意見が反映されていれば確実により良い評価を受けます。タイトル一つの売上を伸ばす狙いが、将来的に製作した人全体にまでその期待は及ぶこととなり、長期的な売上の向上を信頼と共に勝ち得ることとなるでしょう。これが「良い体験版」の力であり、普通の体験版とは一線を画したプロモーションを可能にします。

これが上手いことツボにはまると、『ゴッドイーター』になれるわけです。ユーザーに真摯になれば、売れる可能性は高まるわけです。だけど、それが出来ないのが「企業」の体質というもので、「初心忘るべからず」とは言ったものだななんて思います。ユーザーにとって、大人の事情で半端な出来となってしまったものを買っちゃった時ほど馬鹿馬鹿しいことはないですよね。それがない世界ってどれだけ素晴らしいだろうなぁなんて夢想するけど、それは結局夢でしかない。せめてでいいから、体験版を有効的に活用して、少しでも作品の糧にしてくれればと願うばかりです。