特殊報道部

アドベンチャーゲームの面白さって、如何にプレイヤーをストーリーに没入させるかに尽きるかだと僕は思う。まあそれはRPGにもアクションにも、というか本アニメ映画などゲームに限った話ではないんだけど、ゲームという媒体で提供されるものとしては、他と比べて明らかにゲーム性に乏しくなってしまうAVGは、シナリオで魅せなければどうするんだっていう話。ノベルゲームなんて言葉はまさにその象徴だろう。ディレクターじゃなくシナリオライターが売り文句の一つになるのもその所以。

ただ、とは言ってもAVGは小説でもなければ映画でもなく、れっきとしたゲームの一つだ。お話を見せるだけならゲームにこだわる必要性はない。だったらそれらのものとどう差別化を図るかというところで出てくるのが、「ゲームシステム」。いわゆるインタラクティブ性ってやつだ。

簡単なもので真っ先に思いつくのは「選択肢」だろう。プレイヤーの選択で物語は分岐するという「双方向性」がそこにはある。他だと、脱出ゲームなどでよく見られる「クリックするとその対象が何らかの反応を起こす」とかも使い古されてはいるが印象的だ。個人的に『ポリスノーツ』は、小島監督のコダワリや茶目っ気がよく表れていて面白かった。色々なところをクリックさせようと促す作りが光った名作だ。

話が逸れてしまったが、何が言いたいかというと、AVGは他のゲームジャンルに比べてアピールポイントが絞られるんだから、特に肝ともいえる「ストーリー」はキチンとして欲しいし、尚且つゲームというメディアである以上「システム面」でも一つ何か魅せて欲しいってことだ。長々と書いた割に至極当たり前のことを書いてしまったが、ここからが本題となるので何とか辛抱して欲しい。

それを前提としてこの『特殊報道部』というゲームを見ると、

「まあまあ面白い」という何とも曖昧な感想に落ち着くだろうか。何だか自分で書いておいてヒドイ表現だとは思うが、絶賛できるわけでもなくかといってツマラナイわけでもない今作に対して、最も適切な表現はこれだろうと思ってしまったから致し方ない。こういう時思う。「まあまあ」とか「割と」とかって何と便利な言葉なんだろうかと…。

ともあれ、このような感想を抱いたのにはもちろん理由がある。幾つか考えたが、まずは肝ともいえるストーリーに関してネタバレなしで思ったことを書いてみるとしよう。

今作が扱っている題材は「超常現象」

いわゆる超能力や幽霊などのトンデモであり眉唾であり、やもすると人間の生み出した妄想かもしれない現代科学では解析不可能なものだ。都市伝説や陰謀論なども当然守備範囲であり、使い古されてはいるがテレビやネットに造詣の深い人にとってはある意味とても馴染み深いテーマが目白押しとも言える。

超常現象とは文字通り「常識を超えた現象」だ。人間であれば未知に惹かれるのは自然であり、むき出しの好奇心を抑えるのは至難である。平和な現実に退屈している人ほど、超常現象は色褪せた世界に刺激を与えてくれるものであり、それはまさに「ロマン」と呼ぶにふさわしいだろう。

正直、なかなか興味を引かれるテーマだ。UFOやUMAなど既知のものも多いが、その分それらに対してどのような味付けをし、今作独自の結論を見出しているのか気にならないと言ったら嘘になる。ただ、その分求められるもののハードルが高いのもまた事実だ。使い古されているからこそ、その題材に対しては慎重を期さなければならない。

まあそういう意味では、今作は結構頑張ったんじゃないかと思う。超常現象をテーマとしつつも、それを無理のない範囲で物語に落とし込み、伏線も回収して理不尽の感じさせないものにしていた。そして何より、一話完結型ながらも興味が後を引く「先が気になって止め時が難しい」というプレイヤーのジレンマを再現できていたことをここに記しておこう。超常現象というスパイスの加減を間違えなかったという点で、第一段階は十分クリアしていただろう。

しかし、エンディングを迎えて「ああ、こいつは名作だな…」とまで言わしめるほどではないというのが正直なところでもある。破綻はしていないのだが、超常現象を扱っている割には地味というか…微妙に予想しやすいところも問題だったかもしれない。一応補足しておくと、ハッピーエンドであるため印象自体はそこまで悪くない。ただ、手放しで褒められるものでもない。ラストにかけての「微妙な尻すぼみ感」が尾を引いた形だろうか。

システムに関しては特徴的なところも多いのだが、

それが親切すぎる部分もゲームとしてどうなのかと疑問が残った。具体的には、番組作りに際しての素材の検証に関して、これが簡単すぎてあまり「ゲーム性」という部分に作用しておらず、作業と感じさせてしまう作りが問題のように思えた。映像の奇妙な部分の指摘だけに留まらず、音声の検証など種類を増やしてプレイヤーに色々させようという努力は伺えるが、イマイチ空回りしていたというのが僕の見解である。

また、物語の分岐がほとんど見られない作りも賛否が分かれそうな部分だ。一応企画書の提出の段階で二つの選択に迫られることとなるのだが、これはあくまで超常現象に対する解決のアプローチが若干変わっているだけで、本筋自体に影響を及ぼすものではない。故にプレイヤーが自分で道を切り開くというよりは、小説を読み進めるイメージに近いと言える。

トライ&エラーを要求するゲームデザインではないため楽といえば楽だ。そういうゲームがあってもいいだろう。しかし個人的には、番組作りを疑似的に体験できるせっかくのシステムなんだから、もうちょっと歯応えであったり物語の分岐が見られてもいいんじゃないかと思った。アイデアが悪くなかっただけにもう一歩踏み込んで欲しかったというのが本音だ。

個人的に最も良かったと感じたのは

キャラクターデザイン、そしてそのキャラ付けだ。どのキャラクターも個性的で、セリフも声優さんの演技と合わせて笑ってしまうことが多かった。「特殊報道部」という一団の、チグハグながらも強く滲ませる一体感もプレイしていて好感が持てた。役回り上主人公が若干地味な傾向にあるが、それでも共感しにくい人物像というわけでもなく、新人でいきなり閑職に追いやられながらも奮闘する様は見ていて応援したくなった辺り、悪くなかったのだろう。

キャラクターデザインは、漫画家・イラストレーターの清原紘氏が担当。ゲーム業界では見かけることの少ない人だが、絵柄は特徴的で見ればその人とすぐ分かる。クオリティー自体とても高く、一見ゲームには似合わなそうな耽美的なデザインも、プレイしてみれば何の違和感も覚えることはなかった。それどころか、今までにない新鮮さも相まってこの人以外はもう受け付けないほどだ。作品としても個性的な部分だし、十分「アリ」だろう。切に、この絵柄を採用するゲームが増えて欲しいと願うところである。

総評

超常現象にここまで浸かったのも久々、というか初めてな気がするが、やはり常識を超えた現象だけあってどれも好奇心を強く刺激するものばかりでワクワクさせられた。「常識を超えてるんだからこんな展開も許されるよね!」というルール違反も特に見受けられず、アドベンチャーゲームとしての骨子は十分出来あがっていたと言えるだろう。

キャラデザに清原紘氏を起用したのも評価されるべきところだ。決して話題作りのためだけじゃない、作品を構成する欠かせない要素の一つにしていた。男は格好良く、女は美人で、オッサンはダンディに。そんな大原則がこの繊細なデザインで見れるのは今作の魅力である。ネットで微妙に話題となった知華の巨乳、というかもはや怪乳とも言うべき圧倒的乳も、ある意味魅力と言えるだろう。

システムに気になるところは見られたが、物語の引きとキャラデザが見事だったためまあいいかなと思えている。グチグチ難癖つけるよりは、良かった点を褒めてあげたくなる微妙に憎めない作品といった感じ。光るものが多いだけに、発売後もほとんど話題にならなかったのが残念でならない。

特殊報道部 - PSVita

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