イース セルセタの樹海
『イース』といえば、老舗日本ファルコムを代表するRPG作品であり、公式では25年に渡って『英雄伝説』と合わせて2大RPGと称さるほど息の長い人気シリーズです。故に「あなたにとってのイースといえば?」と問われれば、その答えは十人十色でしょう。とにかく移植やリメイクが多いという特徴を持つシリーズなので、例えば初代イースでもPC88やPCE、あるいは最新のPSP版をプレイした人では作品に対する思いも違ってくるという面白い現象が起こり得るのも、『イース』という作品の特徴なのです。
いきなり余談で恐縮なんですけど、それにしても「25年」という歳月は凄まじいですね。僕とほぼ同い年ですが、激動のゲーム業界においてこれだけ長い間愛されている作品はそこまでないと思います。ファルコムの育て方が上手かったのか、あるいは熱心なファンによる支えがシリーズ人気を確立したのか、歴史を紐解くと興味深いデータが出てきそうで若干の探究心をくすぐられるテーマです。
閑話休題。25年の歴史を持つ『イース』は、時代に合わせてシステムやグラフィックを新生しています。そして、今回の『イース セルセタの樹海』について触れる上で避けて通れないのが『イース7』です。
『イースVI ナピシュテムの匣』で確立した3D空間でのアクションを前提として、視覚的な変化はもちろん、性能の高いローリングやスキルシステムの追加でよりアクション要素のベクトルを伸ばし新生したのが『イース7』でした。新作としてはファルコムPSP初参入というところも話題を集めヒットしたのも記憶に新しいですね。そんな『イース7』をベースにした作品が、今回PSVitaで登場した『イース セルセタの樹海』になります。
PSVitaという新ハードに移って何が変わったのか。グラフィックか、サウンドか、それとも操作性か。どれも変わったといえますが、最大の変化は「更なる快適さ、アクション性を追求したシステム面」です。
まあ変化と言ってもベースとなっているのは『イース7』であり、少し触っただけではそこまでの変化は感じられないと思います。なので正しくは「最大のマイナーチェンジ」といったところでしょうか(日本語的にちょっとおかしそうだけど)。
『イース7』という作品はローリングの性能がとにかく高く、移動面においても通常移動のそれを遙かに凌駕していたため常にアドル一行がゴロゴロしていました。そんな快適無敵なローリングを前提としたゲームデザインは、その上にスキルシステムを乗っけることで『イースVI』のそれとは明らかに違うものを確立しました。その上で今回取り組まれていたのは、更なるプレイアビリティの向上を目指した「スキルシステム」の改良です。
分かりやすく個人的に良かったと感じた点を箇条書きにします。
基本的なゲームデザインは変わらないものの、スキル使用の条件が至るところで明らかに緩和されており、「もっとスキルをガンガン使っていいよ!」という微妙な変化が行われたことに気付かされます。これは、爽快感の根幹を成す要素の一つであるスキルシステムがよりユーザーフレンドリーになったことで、プレイヤーをより気持ち良くさせてくれている言えるでしょう。さらに、ここに新ハード移行の恩恵であるグラフィック面の強化が気持ち良さを後押しし、『イース7』よりも更に上のステージに到達したことをひしひしと感じさせます。
そしてここが更に凄いのは、この気持ち良さは初心者から上級者に至るまで普遍的であるということです。上級者にはスキルの組み立て方に幅を持たせて自由度の高さを提供しつつ、初心者にはそういった複雑さを感じさせないアクションの気持ち良さ、もっとかみ砕いて言えばいわゆる「俺TSUEEEE!!」感をガチャプレイでも実現していることが、今作『イース セルセタの樹海』の真髄でしょう。前述の通り「マイナーチェンジ」ではありますが、個人的に「フルモデルチェンジ」という言葉を使いたくなるほどの改良点だったと断言できます。
だからこそ余計残念と感じてしまったのが、微妙に散見された「処理落ち」です。広大なフィールドで敵が密集するとフレームレートが安定しないことがあります。頻度はそこまで高くないので重箱の隅をつつく様な指摘かもしれませんが、『イース7』ではほとんど見られなかった現象だけにもうちょっと気を配って欲しかったというのが思うところです。フィールドの広大さを取るか、極力処理落ちをなくすか、ゲーム制作素人の僕にはその舵取りの難しさは伺い知れません。しかし、一プレイヤーとしての意見を言えば、折角のアクションRPGなんだからアクションを阻害するような要素はなくして欲しかったというのが本音です。
まあここら辺は難しい問題ですよね。それで今作の魅力がどこかで失われるようなことがあるならば、処理落ちもまたやむなしだろうし。ただ、そういった駆け引きはプレイヤーには預かり知らぬことであり、言わば舞台裏の話です。アクションの完成度が高かっただけに、その若干のネガティブシンキングさえも許さないのがベストでした。理想論ですけど、それもまたシリーズへの期待の裏返しということでここは一つ。
総評
とても良く出来ていました。いやもうお世辞抜きで面白かったです。
『イース7』の良さを残しつつ徹底的に煩雑さを解消してアクション要素の強化に努めたのは、新たに大きな爽快感を生み出しました。アクションの強化は初心者に対してある意味リスキーですが、そこら辺はさすが日本ファルコムとでも言いましょうか、初心者にも上級者にも楽しめるアクションを提供するという荒業を成し遂げ、『イースI』のキャッチコピーでもある「今、RPGは優しさの時代へ。」を2012年現在でも守ったと言えるでしょう。
PSVitaでの登場には意味があったのか。いやーもう語るまでもありません。このストレスフリーなスキルシステムに派手なエフェクトがほとばしるスキルを使い続ければ、『イース7』にはもう戻れないでしょう。それを成し得たのがスペック向上だったらとすれば、僕は新ハード移行にも十二分に意味が見出せます。
まあとは言ってもPSVitaというハードはメモリーカード込みで色々とお金がかかるハードですから、ハードルが高いというのもまた事実。そういう人には、とりあえず『イース7』を遊んでみることを勧めます。そして『イース7』を楽しめたならば、是非今作にも手を伸ばしてみて欲しいです。そのハードルの高さを補って余りあるアクションRPGの魅力が、この『イース セルセタの樹海』という作品には詰まっていると僕は思います。
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