AURA 〜魔竜院光牙最後の闘い〜

AURA 〜魔竜院光牙最後の闘い〜

人類は衰退しました」で鮮烈な小説家デビューを果たした田中ロミオが贈る超痛青春ラブコメディ。昨年7月の発売当時から大きな話題を呼んだ作品だけに、既に多くの方が手に取ったであろうことかと思いますが、僕も今更ながら読ませていただきました。

あらすじ

主人公・佐藤一郎高校デビューを果たした。過去の忌まわしい記憶から決別するため、二度と同じ過ちは繰り返さないという確固たる決意の元から、彼は中学時代の自分自身を捨て去り、高校に進学すると共に全く違った人生を歩むことを選択した。
・・・のはずが、そこで一人の少女と出会う。その華奢な身体に纏うは空想上の魔法使いがよく着ているようなローブそのもので、話せば出るわ出るわその口から出てくるわ、意味不明な発言の数々。名前を佐藤良子という彼女は、紛れもなく世間的にいう“電波”な女だった。それも致命的に重症レベルなもの。彼女のような人間はこう呼ばれる、「妄想戦士」と。
・・・え、高校デビューしたのになんですかこの女は!俺の切望した“普通の高校生活”はどうなるんだ!あるぇー?
痛すぎる妄想が炸裂、でもそんな人たちだったからこそ織りなすことのできた青春ラブコメディ。

妄想戦士とは

現実に対しての絶望感、世界に対して自分はあまりにも小さい存在でしかないという事実を知ってしまったとき、自ら考えだした妄想設定をもってそのやりきれない現実に立ち向かおうとする人々のことを言います。総称して“邪気眼”と呼ばれますし、もっと広義に解釈して言えば“中二病”とも表現できるでしょうか。
まあもっとストレートに言ってしまえば、めちゃくちゃ痛い人ってところでしょうかね。
ライトノベルやゲームに出てくるようなファンタジーやSF等から多大なる影響を受けて、それを脳内で“My設定”として構築してしまった人達が登場人物の過半数を占めます。件の佐藤良子もその一人であり、一郎が彼女の一挙一動に振り回されながらも距離を縮めていくというラブコメ演出が本筋です。

それと同時に

本書では「学校」という空間が持つ残酷さをリアリティに描いていて、物語に上手く絡めています。クラス内ヒエラルキーと言いますか、いわゆるクラス内における階級社会ですね。当然そこでは妄想戦士は煙たがられる存在であり、クラス内の異物として迫害されます。そんな彼らに苛立ちを覚える一郎。なんで“普通”にできないんだよ、と。どうして“空気を読む”ということを知らないんだよ、と。
学校にまでその魔法使いローブを着てくる良子に対しても怒りをぶつけます。それは一郎の中学時代のトラウマが今いる妄想戦士と被るからです。妄想戦士の末路を自ら経験したが故に、彼らの行為を愚かしいと思い正して欲しいと願うわけです。

でもそれって

慣れないことをして皆と合わせていかなければいけないという苦痛を伴う生き方とイコールで、本当に空気に縛られるのが正しいのかという疑念を沸かせます。

「一郎こそ、この世界が楽しいと本気で思っていると?」
「それは」嘘のつけない質問を投げられた。「・・・そうさ。普通の高校生らしさになじめない人間だよ、俺は。けど、こうやって頑張ってんだろ!」
「私は頑張れない」
「なんで頑張れないんだよ!」
「狭量だから」
「誰が」
「世界が」
ああ、そりゃお前----
悔しいが、認めざるをえない。その通りなのである。
俺たちは皆、競って狭量であろうとしている。
狭量でなければ、怖くて怖くてたまらないのだ。型に押しこめられて安心したいのだ。目立ったらキモいというレッテルを貼られるから。
けど俺は、俺たちは、本当は。
神を、魔術を、怪物を、神秘を、奇跡を、伝承を、終末を――生きる心添えにしたい。好きでもないカラオケに行ったり、お洒落に大枚を投じたり、気の合わない人間に尻尾を振ったりしたくない。

世界が狭量であるが故に自らも狭量でなければいけないのか? 正しい生き方って結局何なのか? 多くの苦難を乗り越えて一郎と良子は結論を出します。ここが本書の見どころですね。

この本、読んでいて

恐ろしく自分のことを考えてしまいます。個人的な話になってしまいますけど、僕自身「妄想戦士」だったことは多分ないんですよ。ただそういう妄想にふけることはよくあって、例えばドラクエのようにパーティで行く冒険だとか、そういったファンタジー系ですね。元々ゲームが好きだったので憧れていた部分が大いにあります。しかし、それはあくまで自分の頭の中に留めて、学校内では恐ろしいほど空気を読むように心がけていました。皆の輪から外れるのが怖かったからです。
今から思えば、すっげえ疲れる生き方していたなぁ・・・なんて。もちろんそうやってビビりながら生きていたから今の自分があるわけでそれを否定したくはないんですけど、この一郎と良子の生き方を見ていると格好いいなぁなんて憧れちゃいます。隠れゲーオタやっててゲームにお金使いまくった結果他に金を回せないここ最近の状況を、一般人なお友達に理解して欲しいだけなんですけどねw あー想像しただけでゾッとする。

総評

超面白いです、これは傑作
妄想戦士が矢継ぎ早に語る「My設定」はそのあまりの邪気眼ぶりに笑えますし、一郎と良子の関係も不自然ない感じで見事にラブコメしてくれてます。またクラス内ヒエラルキーの描写はあまりにリアルで妄想戦士と一般人の衝突が幾度となくありますが、最終的な勢力図を見ると非常に心地良い落とし所を押さえてくれていて後読感も大変いいですね。
なんだか妄想戦士がもの凄く格好いい存在に思えてきました。彼らの恥も外聞も捨てたゴーイングマイウェイぶりにリスペクト。
おススメです。

AURA ~魔竜院光牙最後の闘い~ (ガガガ文庫)

AURA ~魔竜院光牙最後の闘い~ (ガガガ文庫)