ニーア ゲシュタルト/レプリカント

ニーア レプリカント

昨年の4月にスクウェア・エニックスから発売されたアクションRPG。製作は『ドラッグオンドラグーン』などを手掛けた今は亡き「キャビア」。キャビアと聞いて僕のゲーム遍歴を思い出してみると、『BULLET WITCH』の体験版をちょっと触った程度というにわかもいいとこなんですが、今回友人の後押しもありプレイしてみました。

よく練られたシナリオ、“哀”を感じる作風をこれ以上なく表現した音楽…それが『NieR』

今作のジャンルは「アクションRPG」ですが、アクション部分に特別優れたところは見受けられません。もちろんつまらないというわけでもないですが、かといって光る部分があるということもなく、派手さがない分至って無難な作りに落ち着いていると言えます。

プレイしていると気付きます、今作はもっと違うところにその魅力があると。

まず僕は拠点となる村のBGMに心を奪われました。どことなく哀愁を漂わせる曲調は、哀しさを滲ませながらもどこか惹きつけられるものがあり、ここで『NieR』とはどのような世界なのかを知ることになります。主人公・ニーアは、唯一の家族であるヨナのために何でも屋という形で村人から様々な依頼を引き受け、報酬としてお金を貰うことで何とか食いぶちを稼いでいるという状況ながら、ヨナと共につつましく暮らしていければ僕たちは幸せだ、というのが導入部分です。最初の依頼は、北平原で羊の肉を取ってくるという簡単なもの。早速北平原に向かい、羊を探しに行くのですが…ここでもその音楽の素晴らしさに鳥肌が立ちました。先ほどの「哀しさ」から一転、今度は広大なフィールドを彩るに相応しい「旅立ち」や、また「主人公の決意」じみたものを感じ取ることができたのです。

いきなり音楽のことばかり書いて恐縮ですが、それほどに今作のサウンドは完成度が高いです。なかなか活字にして説明するのも難しいのですが、例えるなら、ストリートミュージシャンの歌声が聞こえてきた時に思わず足を止めてしまうような、あるいは夏場のスズムシの鳴き声に気付いたら聞き入っていたというような、そういった知らず知らずの内に心に溶け込んでくるような魅力があります。本当に、初めての体験だったかもしれない。場面切り替えの度に立ち止まり、延々と音楽ばかり聞いてしまったゲームというのも。

そして、これに花を添えられる形になるシナリオがまた素晴らしい。内容は言うまでもなく、それ以上にその“見せ方”に僕は感動しました。今作は、「周回プレイ」を前提としたストーリー構成になっています。一周してお話は一応の着地点を見せますが、最後に明かされる真実を知った上で再度ゲームを始めてみると、物語は全く違った見え方を呈してくるのです。新規のムービーもいくつか挿入されますが、基本は同じ物語をなぞっているだけなのにそこから感じ取れるものは180度変わってくる。これもまた初体験でした。

今作はこのシナリオと音楽、そして世界を形作るグラフィックが、ほんっっっっっっっっっとうに物凄く高い水準でまとまっており、『NieR』らしさというものを考えると、これらに集約されていると言っても過言ではありません。アクション部分は特に派手さもなく地味と言いましたが、それはもうあまりにちっぽけな問題で、取るに足らない。ゲーマーとして、アクションRPGの根幹でもあるアクション部分、もっと言えばゲームたる所以であるインタラクティブ性を、「取るに足らない」と一蹴してしまうほどに、『NieR』が醸し出す哀しくもどこか力強さを感じさせる世界は、魅力的すぎて没入してしまうのです。

総評

ごめんなさい。ゲームのレビューなんだからもっと短所も取り上げて総合的に評価するべきだと思うんですが、この『NieR』という作品に魅了されすぎて褒めることしかできません。それだけ感動しました。プレイ前にそこまで期待していなかった反動がないと言えば嘘になりますが、AVGなどで時たま感じる「あー…クリアしてしまった」という一種の寂しさみたいな喪失感を感じている辺り、僕自身の気持ちに偽りはないんだと思います。

一つ感じたのは、『NieR』は「ゲーム」だからこそここまで惹きつけるものがあるんじゃないかということ。アクションが地味であると一刀両断し、尚且つシナリオと音楽の組み合わせが絶妙であるならば、それこそ「映画」という表現方法でも良い作品は作れると初めは思いました。しかし一方で、ゲームでなければここまでの世界を作り出せなかったという気もする。それは何故か。

同じ物語を見せて全く違った解釈を受け手に植え付けるには、ゲームの「周回プレイ」という概念が最も適しているからだと思います。手塩にかけて成長させたキャラクターと共に旅をすると、そのキャラによほどの問題がない限りは少なからず感情移入するものです。主人公たちが目指すものを共有し、プレイヤーはキャラクターの分身として目標に向かって共に突き進んで行く。しかし、そんな彼らが信じてやってきたことには、実は途方もない何かが隠されていて、その真実を明かされた時の衝撃を伝えるには、受け手がインプットに終始する「映画」というメディアでは荷が重すぎるように感じるのです。

…僕がどれだけ御託を並べ立てたところで、今作の真価は伝わらない気がしますね。情けない限りですが、それほどにこの作品の魅力は伝わりにくいのです。

それにしても、スクエニはこんな作品も発売できるんだなぁ。まあ製作はキャビアですけど、発売前にグラフィックのクオリティーが微妙と揶揄され、新作というハンデを背負いながらも発売し通したことは素直に英断だと感じます。ちょっと脱線しますが、最近のスクエニって『ドラクエ』や『FF』の続編とかリメイクばかりで、あまり新作を作っていないイメージですよね。実際のところ新作自体の数も減っているんですが、そこには海外市場を考慮した結果のリソースの配分が変化しているところも大きくて、例えば「Eidos」を買収してTPSやアドベンチャーに力を入れるようになったというのは、まさに象徴的な出来事です。マーケティングマーケティングを重ねての判断でしょうし間違っているとは思いませんが、一つ忘れてはならないのが企業も人と同じで“得手不得手”があるということ。スクエニの場合、得手とは当然「RPG」のことであり、不得手とは極端に言ってしまえば「それ以外」となります(もちろん例外もたくさんありますが)。今のスクエニは、自分の武器を蔑ろにして、戦うべき土俵を見誤っているように思えてなりません。『ドラクエ』や『FF』も大きな武器であることに疑いの余地はありませんが、その使い方はひたすらに過去の遺産に頼っているだけと言わざるを得ない。武器を振り回すだけで、研ぐという行為を怠っています。

FF13-2』もいいでしょう、「25周年」とかこつけて『ドラクエ1・2・3』のベタ移植を、超!今更!(ここ重要)発売するも良しとしましょう。どれもブランド力は絶大なのでそれなりの需要は見込めるだろうし、上場している企業と言う立場上、ビジネスチャンスを逃さないその虎視眈眈な姿勢はむしろ称賛に値します。ですが、あくまでそれは経営的なリスクヘッジとして捉え、新作を発売していかないことには白い目を向けられても仕方のないことというもの。旧スクウェアエニックス時代に、新作RPGを立て続けにヒットさせた輝かしい栄光を知っているからこそ、皆ここまでスクエニに望むものが大きいんです。その愛を感じ取れないほど落ちぶれていないと信じたいし、この『NieR』という素晴らしい作品をプロデュースする力が残っているのならば、また蘇ってくれるという希望も持ってしまいます。…ていうか全く関係ない話ですよね、スイマセン。それだけ『NieR』は凄い力を持っていると言い訳させて下さい。今のスクエニを憂いてしまうほどに。

そういえば、余談ですが、5〜6年前に『クライオン』という作品が発表されたのを覚えている方はいるでしょうか?
『FF』生みの親である坂口さんが、『ロストオデッセイ』を始めとするRPGを360独占で開発していたという今となっては懐かしい時代、その頃新たに発表されたのが『クライオン』でした。「坂口博信」×「キャビア」というのがまた話題を呼び、僕も結構気になっていた作品でしたが、開発中止のアナウンスを聞いた時は愕然とした記憶があります。ただそこからパートナーをスクエニに移し『NieR』が生まれたとなると、余計に「キャビア」という製作集団が解散してしまったことに一抹の寂しさを感じずにはいられません。

アルティメットヒッツ ニーア レプリカント - PS3

アルティメットヒッツ ニーア レプリカント - PS3

レプリカント』と『ゲシュタルト』には、一つだけ“主人公の立場が違う”という明確な差異があります。『レプリカント』はヨナの兄であり、『ゲシュタルト』はヨナの父であるということ。兄弟か、親子か。その違いは物語への印象を変えるかもしれませんね。

ニーアゲシュタルト&レプリカント オリジナル・サウンドトラック

ニーアゲシュタルト&レプリカント オリジナル・サウンドトラック

音楽が良すぎるのでサントラもおススメします。