英雄伝説 空の軌跡FC

※シリーズ初プレイ

英雄伝説 空の軌跡FC

老舗ゲームメーカー「日本ファルコム」の代表的な作品である『英雄伝説』シリーズ。その第6作・同シリーズ第3期となる「空の軌跡」シリーズの第1作となる作品で、この後に『空の軌跡SC』・『空の軌跡 the 3rd』と続きます。ちなみにFCとは「ファーストチャプター」の略、そのまんまですね。元々非常に人気の高いシリーズですが、9月にまた続編である『碧の軌跡』が発売予定ということで流行に乗るべくプレイしてみました。

非常に丁寧な作りが印象的な正統派RPG

元々はPC向けに開発され、発売時期も2004年とPS2一強時代に登場した作品ですが、さすが長年の歴史を誇るメーカーの仕事ぶりと言いましょうか、あまりに丁寧且つ要所を押さえた見事な作りで驚きの完成度を誇るRPGでした。

僕が何よりも感心したのは、徹底的にユーザー目線を意識して作られた親切丁寧の限りを尽くしたシステムです。今作には遊撃士(ブレイサー)と呼ばれる、軍隊とは別で民間団体として国中の人々から依頼を請け負い平和に貢献していく職業が存在し、主人公であるエステル・ブライト、ヨシュア・ブライトの両名は準遊撃士から正遊撃士になるため、そして突然行方をくらました父親を追うために全国を旅して回る、というのが物語の導入部分になります。旅の途中で様々な人から依頼を請け負い、同時に本筋である父の捜索を並行して行っていくことになるため、依頼の内容を失念したり次にすべきことを見失ってしまったりすることが多々あるのですが、今作の凄いところは、その依頼内容、ひいては自分が次にすべきこと・今まで何をしてきたかという軌跡、それらが全て遊撃士手帳というものに記録され、いつでも確認することができるという点です。あらすじだとかそんな生ぬるいものではなく、本当に事細かにそのプレイ内容を閲覧することができ、ユーザーのプレイ環境を支えてくれます。

それ以外にも、「シンボルエンカウントの採用・退却可能な戦闘の場合100%退却可能・カメラの細かい調整が可能な柔軟性・ロード時間の短さ・いつでもどこでもセーブ&ロード機能」など挙げればキリがありません。本当にかゆいところにまで手が届いており、実は元々PSP向けに作られたのではないか?と疑ってしまうほどに移植の弊害も感じさせず、「ストレスフリー」という言葉がこれほど似合うRPG作品も珍しいです。

物語や戦闘も魅力的なので後述しますが、この丁寧な作りにはかなりの光るものがあり、RPGを製作する上でのデファクト・スタンダード的位置付けにするという提案も冗談ではないほどです。今作をプレイしていると、ゲームの面白さの本質というものは、プレイ環境が如何にユーザーの理想とするものに肉迫しているかという点を踏まえた上で初めて成り立つものなんだなぁと思い知らされます。ストレスを感じさせないゲームがここまでの没入感を出すものなのかと、あまりに基本的で忘れかけていた事実を教えてくれて、そんな作品がまだまだあることに嬉しくなりました。

戦略性に富んだ戦闘

今作の戦闘システムは、コマンド式に「移動」という要素を加え、ターン性に重きを置いたS.RPG風味なものとなっています。「AT(Action Time)バトル」と呼ばれ、特に印象的なのは「ATボーナス」という概念です。これは、キャラクターの行動時にタイミングによってボーナスが付与されるというもので、HP回復やダメージ増加など様々な効果が敵味方問わず与えられる権利を持つことになり、結果的にそのボーナスをめぐって味方のターンを上手いこと操作するのが勝負の鍵を握ることになります。これがプレイヤーのターンへの意識を強くさせ、ボーナスのためにわざとターンを遅らせて行動させるなどの戦略が生まれ、ボス戦などは特に戦略的思考を問われるようになり非常に楽しいです。

具体的に、ATの順番はキャラクターの取った行動やステータスによって決定し、魔法や特技など強力なものを使うのに比例して次に回ってくるターンは遅くなり、逆に移動など簡単な行動を取った場合はターンの回りも早くなります。これを踏まえた上で、例えば敵が魔法の詠唱を始めてその発動タイミングにクリティカルボーナスが与えられている場合、プレイヤーとしては大きな痛手となってしまうため何としても回避したいと思うはずです。そこで、あえて味方キャラに移動だけさせてターンの回りを早くさせ、詠唱中の敵よりも先に行動順を割り込ませてボーナスが付与されるターンを意図的にずらし、逆手に取るということが可能なわけです。

この駆け引きがとにかく面白い。敵にもボーナスが与えられる状況は独特の緊張感を作り出し、回復魔法が間に合わない時は即効性の高いアイテムに頼らなければならないなど全ての行動を考慮に入れながら戦わなければならず、ボタン連打で終了なんてしょっぱい展開はあり得ません。かといってザコ戦でも毎回高い戦略的思考が必要とされるというわけでもなく、ボス戦とのうまいバランスが取れていてここでもストレスを感じることはありませんでした。

壮大な世界観で語られる物語はとにかく先が気になって仕方がない

長寿シリーズだけあって、世界観は本当によく練られています。

エレボニア帝国とカルバード共和国の2大国が覇権を争う中、その間で板挟みにあっている小国・リベール。これが今作の舞台なわけですが、驚かされたのはリベールという国から一歩も出ることはないにも関わらず、他国の国民性や風土などがちゃんと描かれていて、また国々の情勢も物語に密接に関係しており、登場諸国が置かれている状況が緻密に描写されているが故にその世界が確かなものと感じられました。

物語の見せ方も絶妙で、特にラストの引っ張り方は反則でしょうコレ。さすがに続編を前提としたシリーズだけに、その物語も世界も巨大で一作で収まるものでは到底ありません。ゲームとしてつまらなければこれだけの世界観も開発者の自己満足で終わってしまうという末恐ろしい話ですが、如何せんRPGとして高い完成度を誇っているためプレイする側としては巨大で濃密な世界に没頭することができ、非常に熱中度も高いです。

今作は大体30時間ほどでクリアしましたが、これは普通のRPGでいえばまだ折り返し地点にすら立っていない状況です。続編である『SC』はなんとPSP初のUMD2枚組であり、これに後日談が語られる『the 3rd』と続きます。さらに昨年発売された『零の軌跡』は、『the 3rd』の半年後が舞台ということで世界観も当然同じものが採用されており、これに『碧の軌跡』が発売予定となればどれだけ大きな舞台が用意されているのか想像できるでしょう。

総評

この作品を今までプレイしてこなかった自分を殴りたい。そこまで感じさせる非常に完成度の高いRPGです。世界観、シナリオ、戦闘とどれをとっても一級品で、それらを非常にレベルの高い水準で丁寧にまとめあげているケチのつけようがない傑作と言えます。自社レーベルを立ち上げるほど音楽に力を入れている日本ファルコム製だけに、サウンドも魅力的でファンが多いのも頷けます。

唯一思うところは、ストーリーの規模が大きくプレイ時間も他作品より明らかに多く取られてしまう点です。『ワンピース』を今から全巻読破するのが億劫と感じてしまうように、軌跡シリーズを一から楽しむならば間違いなくこの『FC』から始めなければならず、敷居は正直高いと言わざるを得ません。しかし、その長大かつ濃密な世界で語られる物語にはグイグイと引き込まれるものがあり、登場する魅力的なキャラクターの成長を見届けることには、余暇の時間を割く価値は十分にあると保障しましょう。

英雄伝説 空の軌跡FC PSP the Best

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英雄伝説 空の軌跡セット

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