神様のメモ帳 (7)

神様のメモ帳 7
ニート探偵アリスとその助手ナルミ、ラーメン屋「はなまる」に集まる個性豊かなニートたちが、依頼者からの事件解決を目指すニートティーン・ストーリー第7弾。アニメも放映中。説明するのに言葉は不要な人気シリーズですね。

あらすじ

クリスマスが近づく頃、ホームレス村が形成されている公園で改装工事が始まろうとしていた。民間企業による手直しが入るということでホームレスは強制退去を勧告されるも、反対運動が激化して工事は難航を極めつつあった。

時を同じくして、一人の少女がNEET探偵事務所を訪ねてきた。サングラスで隠した素顔はとてもかいわらしく、見る者を惹きつける。それもそのはず、彼女は今人気絶頂のアイドル・夏目ユイだったのである。彼女は失踪したはずの父を公園で見かけたと言い、その依頼を明かす。

「父と、話したいの。たくさん、話したいことがあるの。連れてきて、お願い」

依頼を受けたニート探偵団は動き出す。

帰る家、ホームがあるという事実は幸せに繋がる。よい事だよ

ホームレスと少佐に焦点が当てられたお話。ホームレスたちが住んでいた公園が、あるスポーツメーカーによってその土地の整備が進められることになり、フットサルコートなどを始めとした施設を作ってスポーツパークにするという計画が進んでいることをナルミは耳にします。居座るホームレスは、当然強制退去を命じられることとなる。

「逃げるんですか。ここが森さんたちの家じゃあないんですか」
「家じゃァねえよ。俺たちはホームレスだ。いいか、ホーム・レス、だぞ」
僕は、急に強められた語調に少し驚いて、森さんの顔を見つめた。
「浮浪者だのルンペンだの乞食だの、それが差別用語だの、路上生活者が正しいだの、色々言われてきたけどな。ホームレスって呼び方が、やっぱりいちばんしっくりくる」

暖をしのぐ仮初めの住まいを作ったところで、それは形としてのハウスにはなるけれど、帰るべき場所であるホームにはなり得ません。彼らは好きで寒い寒い冬を外で暮らしているわけではなく、それは凄く哀しいことに、帰る場所がないから選択している方法の一つに過ぎません。あとがきにもありましたが、地べたってこの世で最も冷たいものなんだそうです。ホームを失うと、その冷たさが余計に感ぜられるんでしょうね。

副題は、『新世紀エヴァンゲリオン』の渚カヲルが言ったセリフの一つです。テレビ放映当時はあまりその意味を考えることはありませんでしたが、本書を読むと思い出さずにはいられない言葉でした。

本書では、ギンジという名のホームレスが登場するのですが、彼が件のアイドルの親父さんでありました。工場で働いていた彼は、経営不振や家族で暮らしていくことにどうしようもない疲れを感じ、全てを投げ出してホームレスとなります。聞いたところどうしようもなく見えるし、実際のところ本当にどうしようもないクズな人間失格男なんですが、依頼を受けたナルミと接触することで彼は思い出します。自分が犯したことの罪深き所業、風化しかけていた家族への後ろめたさ、そして同時に、自分には昔帰るべき場所があったということを。

自らの意志でホームレスとなったため自業自得という他にありませんが、そんな彼が最後に見出しものは、切なくも美しいものでした。帰るべき家(ホーム)がある人にはその幸せは当たり前で、実感しにくい。でも、ホームレスという言葉の意味を今一度考えてみると、ホームがあるというのはとても恵まれたことで、その温かさがあるから人は無茶をできるし、辛く悲しいことがあっても踏みとどまれるんだと気付かされます。

読んでいて、涙が出そうでした。ラストは本当にグッとくるものがあった。見捨てた父親、見捨てられた娘。修復はどうしようもなく絶望的ですし、結果的に残されたものはあまりに大きな代償と引き換えられました。しかし、そこには同時に、確かな「親子愛」も存在したのです。

守るべきものがある人の意志の強さが再び描かれる

何かを守ろうとする人というのは、例え自らが傷つこうとも、己の信念を曲げないものです。守るためにとった行動がどんなに狂気じみていても、それがどんなに他人には理解し難いものであっても、そこには譲ることのできない明確な線引きがある。それは、守ることを放棄した時というのは、自分が自分でなくなる瞬間だからです。守るべきものを失ってまで生き長らえたところで、彼らにとってその生は死と大した違いがありません。だから、意地を張る。どんなに不器用でも。

でも、それは到底ナルミにとって理解できるものではありません。彼は誰よりも、命を粗末にするヤツに対して憤りを感じてしまうから。死者の言葉がどんなに美しくたって、死んだら何にもならないと思ってしまうから。

ミンさんの親父さんもそうでしたが、やり方が不器用すぎるんですよね。そして、本書においては少佐にもそれが言えます。彼がクローズアップされるのは今回が初めてですが、ただのミリタリーオタクでニートな彼にも、軍人としての矜持はあまりに強いものがありました。事件に巻き込まれながらも、彼はアリスたちに多くを語ろうとしなかったのです。

だれかを信じるということと、だれかの無実を信じるということは、別物だ。
少佐がなにをするかしないか決めつけることが僕の幼稚で平凡な信用なのだとしたら、少佐がなにをしようがするまいが絶対に見捨てないと決めることが、ニートたちの持つ力強い信頼なのだ。

神様のメモ帳』を読んでいると、ニートって実は凄いやつらなんじゃないかっていう錯覚に陥ります。まあ錯覚と言うぐらいだから、これは小説で、物語で、作りものであることに変わりはないんだけど、でもここで書かれるニートたちは共有する確固たる信念があって、固い信頼で結ばれています。そんなの素敵すぎますよ。

でも信じられるか?あいつら…ニートなんだぜ。

ナルミお前ってやつはまったく…

詐欺師でありながらも、相変わらずのジゴロぶりですねコノヤロウ!素直すぎるその言葉に、アリスは何度も何度も赤面を禁じえないわけですが、それでもその気持ちに気がつかないのは天然の成せる技なんでしょうか。罪深き男です。

それにしても今回は余計にニヤニヤしてしまう場面が多かったですね!途中何度ベッドの上でのたうち回ったかわかりませんよ!ちくしょうロリコンじゃないはずなのに…くやしいでも読み返しちゃう。安定のかわいさでした、ごちそうさまです。

総評

ニート探偵団によって掘り起こされた死者の言葉は、またしても悲しい結末を呼んでやりきれない真実があったけど、同時に残された者はそれを知ることで少しでも痛みを軽くすることができたはずです。毎度お馴染みのオチですが、だからこそ安定した面白さがあって、読んでいて安心感がありましたね。シリーズ購読者なら、今回で少佐に対する見方も変わるでしょう。事件を通して失ったものも大きい彼が、今後どう描かれるのか気になるところです。

あーそれにしてもアリスかわいい。色々言いましたけど、やっぱこの子あってこそですよね、この作品は。ぬいぐるみを愛玩するついでに僕のこともゲヘヘ…あ、いえ、何でもありませんよお巡りさーん!

神様のメモ帳〈7〉 (電撃文庫)

神様のメモ帳〈7〉 (電撃文庫)