双子と幼なじみの四人殺し

あらすじ

高校生、菱川迷悟(ひしかわめいご)は、双子の少女、新山一縷(いちる)と朽縷(みちる)と同居していた。
美しい双子に翻弄されながら日常を送っていた迷悟だったが、ある日、三人は学校で飛び降り自殺の現場に遭遇する。その自殺に関して一縷は、突き落としたやつが見えたという。正義感の強い、いや、正義感が強過ぎる迷悟は、事件を傍観することができなかった。
――学校のアイドル、グッズ販売、そして交際を賭けた決闘…。愛憎が交錯する事件の果てにあるものは!?
第3回GA文庫大賞“奨励賞”受賞の問題作が登場。
「幸せになる覚悟はある? 人を殺しておいてなお、幸せになりたいと思えるかってこと」 (「GA文庫」公式HPより)

ミステリーではない。しいて言えばサスペンス、でもそれも違う気がする

問題作と公式で言われているだけあってマジで問題作でした。それも悪い意味で。

まず初めに言っておかなければならないのは、本書に対して、タイトルやあらすじからミステリー物とあたりを付けて読むと確実に肩すかしをくらうことです。ミステリー要素はほとんどおまけに過ぎず、どちらかと言えばサスペンス色が強い作品ですが、それでも先の読めてしまう展開は当然さしたる驚きを提供することもありません。“平和な日常から不意に自殺の現場に遭遇する”という突然の非日常の到来は、ちょっとしたドキドキ感を持って先の展開に期待を膨らませてくれる導火線となりますが、読み進めていくうちにそういった思いは尻すぼみしていきます。なぜなら、犯人は誰なのか、どういったトリックなのかといったミステリ要素を追求する作品として捉えると内容は薄いと言わざるを得ず、作者自身もあまりそういった意図で書いてないように思えたからです。

僕が本書を読んで一番気になったのは、登場人物の「行動原理」に付きまとう違和感。つまりなぜそういった行動に出たのかという動機付けが現実の尺度では図れない異常さを持っていて、ほとんど共感することができなかったということです。基本的に、人は何かをする・何かを言う際、その言動の根拠となる信念や欲望を持っています。それは己の仁義であったり愛であったり、もっと人間的に言えば損得勘定だったりするでしょう。大切なのは、人の一挙一動には何かしらの“根拠となるもの”があるということです。本書ではその行動原理の描き込みがあまりに弱いため、人が人を殺す動機となる核の部分がとても希薄なんです。だからイマイチ現実感がないし、共感することができない。ネタバレになるので詳しくは控えますが、「え、こんなんで人殺しちゃったの?」って場面が数多くあります。もはや狙ってんじゃないかというぐらい設定の練りが浅い。

……いや、もしかしたら本当に狙ってるのかもしれない。「殺し」があまりに軽く扱われているためある種の異常さを作品全体に与えていますし、もし作者にそういった意図があったとしたら、“とても現実離れしている”という観点からは成功してると言えなくもないでしょう。ただそれが生み出されている要因は先ほどの行動原理の希薄さであり、“作品に与えてしまっている薄っぺらさ”とは表裏一体であることを忘れてはいけません。僕はここがどうしても受け付けなくて、読んでいて「それはないだろー」とか「ありえねー」とか一人突っ込んでばかりでした。

物語の核となる部分に納得がいかない

主人公である菱川迷悟と双子の同居、そして親の不在は物語の核となる部分が起因して発生しました。プロローグでもそのさわりが伏線として書かれており、読み手の好奇心を煽ります。……とここまでは良かったのですが、ここでもやはり先ほど触れた“行動原理の希薄さ”が立ちはだかるのです。その状態に至った経緯があまりに理解を超えていて、物語の肝といえる場面にすら一般的な行動原理の規範を適用することも適わず、ついに僕の行動原理に対する考えはゲシュタルト崩壊してしまいました。まあちょっと大げさに書きましたが、にしても“行動原理の希薄さ”という観点で本書は気持ち悪いくらい一貫性を保っており、読んでいてちょっとした薄気味悪さを感じる辺りあながち間違いではありません。

さすがにこの核心ともいえるシーンに関しては、もっと掘り下げて書くべきでしょう。感情移入できないのは途中から誰もが抱くことなのでこの際置いておくとして、そもそも「小説」としてここを曖昧にしてしまうのはどうなのよと。ラノベだから続編有りきでストーリー構成を考えているとしても、曲がりなりにもGA文庫大賞に出した作品ですよね?それ一本でしか評価されないのであれば、オチはもうちょっと丁寧につけるべきでしょう。作風とか作者の持ち味とか以前の問題で、小説として乱暴すぎると思います。

総評

行動に対する動機付けが弱すぎて、ついぞ登場人物に感情移入することができない。そんな作品。
価値観の違いはもちろんありますが、本書における行動原理となるものはそういったレベルを超えた次元にあります。「え、そんな理由で人殺しちゃうの?」といったものがまかり通ってしまっている世界を、小説として見て「設定の練りが甘い!」と一蹴するのか、はたまた「この気味悪い世界観が悪くない」と感じるのか、それは人それぞれだと思いますが、少なくとも本書に対してミステリーやサスペンスを不幸にも期待してしまった人からすると、全てが薄っぺらいと言わざるを得ず一般向けな作品とは言い難いです。作風的には西尾維新の『戯言シリーズ』や入間人間の『嘘つきみーくんと壊れたまーちゃん』に似てなくもないでしょう。しかし比べるべくもなく小説としての完成度は『戯言シリーズ』や『みーまー』の方が上です。

ただ作者の地の文はラノベとしては非常に読みやすくまたレベルも高いため、そういった観点からは、主人公の独白がとても特徴的で一般向けとは言い難い先述の2作品よりは優れている部分も見受けられます。設定の練りという根本を少し見直せば、一気に読み応えのある作品になりそうな気がしただけに非常にもったいないと感じました。絵も双子の美人度合いを裏付けるほど可愛らしくエロいため、決して悪いところばかりが目立つ作品というわけでもないでしょう。これがデビュー作ということなので、これからに期待したいと思います。

双子と幼なじみの四人殺し (GA文庫)

双子と幼なじみの四人殺し (GA文庫)