僕と彼女のゲーム戦争 (2)

あらすじ

転入先の高校で、ゲーム部こと現代遊戯部に入部した岸嶺健吾。美人生徒会長・天道しのぶや変態教師・瀬名と一緒に、岸嶺は刺激的なゲームを次々に体験する。
初めて挑戦したゲーム大会では惨敗したものの、岸嶺はなんとか立ち直り、天道や瀬名とともに目の前の課題にとりかかる。ゲーム大会のチーム戦に参加するには、部員が一人足りないのだ。四人目のメンバーを探す彼らの前に現れたのは、強気な金髪ロリ巨乳の少女だった…。
有名ゲームが実名で登場する話題の人気シリーズ、待望の第2巻。リアルなゲームプレイシーンはエキサイト必至。 (「電撃文庫」公式HPより)

全体的にテンポが良くなり読みやすくなった

1巻の感想で愚痴ったリプレイシーンが、本書においてはそこまで気になることはありませんでした。おそらくFPSなどの対戦ジャンルに主眼を置いたことで、バトル物と同種のアツさを感じさせてくれるようになったからでしょう。『アンチャーテッド』などのシナリオ有りきで成立する作品を延々描写されても全ては予定調和であり、作中のテンポを阻害するものでしかありませんでしたが、元々人によってプレイされたゲームを物語にするという発想自体は悪くなかったわけです。それがようやく花開き、『僕と彼女のゲーム戦争』という作品の方向性がしっかり定まったように思えます。

さて、本書の面白いところはもちろん実在のゲームが多数登場するという点が最大のPRポイントかと思われますが、同時にこの2巻に限って言えば、日本ではまだその人気を確立し得ていない「FPS/TPS」の魅力を分かりやすくシナリオに落とし込んで表現しており、言わば「FPS/TPSの入門書」という側面を持っている点が挙げられるでしょう。リプレイシーンを読み応えがあると評価するか否かは人によりけりだと思いますが、様々なFPS作品を通してチームで戦い共に成長していくという物語の流れは、FPSというジャンル自体への慢性的に蔓延る抵抗感を和らげようとする努力と、もっと直球に「FPSってこんなに面白いんだよ!」と伝えようとする作者の熱意が伺えて、ゲーム好きとしては非常に好感が持てます。実際その描き方も妥協がなくて、coopや対戦など基本的なゲームデザインの話から、もっと突っ込んだプレイテクニックに至るまで、おおよそFPSとは何たるかを理解するために必要とされる情報は詰め込まれており、初心者に対するケアも怠っていません。

ただ一つ逆に笑えてしまったのが、取り上げているゲームが妙に外しているというか、変に一般向けではないという点です。『ロスプラ2』にしても『HOMEFRONT』にしても、これである必要性はあまりないですよね。どうせだったら『コールオブデューティ』だったりとFPSを代表する作品をチョイスすれば、よりFPSの面白さをストレートに表現できていたように思えます。まあ権利関係で色々と難しいのかな…ガッカリゲーがわざわざチョイスされているのはなかなかシュールです。

イラストが八宝備仁であるということ

わかる人にはわかりますよね、イラストがとてもエロいのです!ヒロインの可愛さに説得力を持たせるには、仕草やセリフの描写はもちろんなのですが、何よりも力強いのはイラストに他なりません。女性のやわ肌描かせたらここまで男のツボを刺激する絵師ってなかなかいないんじゃないか、そこまで感じさせる貫禄の挿絵は見事です。

お色気シーンがお約束と化していますが、決してそれが押し出されることもなくメインテーマであるゲームにブレを感じさせません。逆にお色気が良い具合に物語のスパイスとなり、ゲーム特有のコンテンツとしての重さだったりしつこさを抑え、作品全体にメリハリを効かせてくれています。洋ゲーを扱っている以上なおさらお色気を始めとしたラブコメ展開はありがたい。蛇足と感じる人もいると思いますが、「ラノベ」として読ませるにはこれくらいの遊びがあった方が取っつきやすいでしょう。

僕と彼女のゲーム戦争』の今後について

今回は取り上げているゲームが全てFPS/TPSであり、他ジャンルの作品は一切登場しません。物語に厚みを持たせるためにも一つのジャンルに絞ることは正解だと思いますが、果たして今後このシリーズはジャンル選択においてどのような舵取りをするのか。2巻の内容自体に特別不満はありませんが、今回でFPSネタについては描き切ったように思えます。というかこれ以上やられると、「ゲーム戦争」とは名ばかりの洋シューティング誌になってしまい、その方向性を確実に見誤ることになるでしょう。読者の反応に敏感になりつつ、どのようなゲームが活字を起こした時に面白く昇華できるかその判断が求められます。

おそらく師走トオル氏のゲーム遍歴にかなり左右されるでしょうが、個人的に「MMORPG」なんかは相性いいかなと感じます。『ソードアートオンライン』などMMOを題材にしたラノベは数多くありますが、それを『僕と彼女のゲーム戦争』の作風で味付けすれば良い方向に独自性が出そうですよね。他には格闘ゲームとか…パズルゲームも面白いかもしれない。そういった意味でゲームのジャンル分シナリオを捻り出す余地は残されており、シリーズに将来性を感じます。

総評

1巻で出た不満点が解消され、実在ゲームを題材にすることで得られる面白さがようやく真味を帯びてきたという感じでしょうか。
実際にプレイしたと思われるゲームが扱われているだけあって、安定感があり説得力があり作品に対するリスペクトがあり、何よりゲームに対する愛を感じさせます。FPSに焦点があてられているのは人を選びますが、プレイしたことがなくてもその臨場感を演出する書き手の巧みさがあり、同時にFPSというジャンルの解説にもぬかりないため取っつきにくいということはありません。個人的に1巻から2巻でかなり印象が変わった一冊であり、今後どのようなゲームが出てくるのかという他にない楽しみ方もあって期待しています。