ライジン×ライジン RISING×RYDEEN

あらすじ

この世にはストレンジャーと呼ばれる能力者たちがいた。ある者は炎を操り、ある者は雷を操り、中には昆虫を使役する者までいる。

隆良は心底彼らに憧れていた。なぜ自分には異能が発現しないのか。自分は選ばれた者ではないのか。思春期特有というにはあまりに痛すぎる葛藤に悩まされていた彼の元に、一人の女性が現れる。

「下野根隆良くん……だな? 中学卒業前の検査の結果、キミに『異能』の力が発現している可能性が出た」

その言葉を聞いて隆良は歓喜した。それは、遂に自分の夢が叶う瞬間が訪れたからにほかならない。自分もようやくストレンジャーの仲間入りとなれば小躍りの一つでもしたくなるものだった。だが、そんな喜色満面の隆良にも、現実は決して甘くなかったのである。

彼の能力――それは、「ゲル状の白濁とした液体を放出する」という訳のわからない残念すぎる力だったのだから。

残念能力持ちの主人公が悪戦苦闘する異能バトルラブコメ

これまた既視感を覚える設定だなぁと思ったら入間人間氏の『トカゲの王』にソックリでした。この世の中には異能を持つストレンジャーと呼ばれる人々がいて、彼らはその名の通り一般人とは一線を画す何らかの能力を身に付けている。基本的に異能は後天的に発症するもの故に、自分にも不思議な能力が開花するものだと信じて疑わない中二病の入った主人公。そしてその願いが届いたのか、彼にも異能が目覚める時が遂に来た……! と思いきや、その能力は何の役に立つのかも不明な超残念能力だった!

oh...もうほぼそのままと言ってもいいほど酷似している。まあ時が経つにつれ似たような作品が散見されてしまうのは致し方ないことなので良しとしますが、直近に読んだ作品がどうしても比較対象になってしまうのが読者の性。こういうケースでは、どのような差別化がなされているのか、オリジナリティはあるのか、といったところが次に目が向くポイントです。

そういった意味では、本書は割と上手く差別化できているかもしれない。確かに設定は酷似しているのですが、読んでみると著者の文体が結構砕けているためにそこから受ける印象はラブコメよりだし、何より主人公の能力が「身体からゲル状の白濁した何かを放出する」というなんだか残念というよりはただ単にシモい変態能力である点がもはやギャグです。この設定からシリアスにもっていくのはやはりどこか難しく、山場といえる場面でもそこまでの緊張感はありません。笑いが先行する異能バトル物というのも正直憚れる。もうラブコメなんでしょうね。全体的にギャグテイストなのは事実だし。

残念能力が物語を面白くしているかが疑問

「身体からゲル状の白濁した何かを放出する」という発想は一見して興味深いですけど、僕にはそれ以上のものを感じる余地がありませんでした。発想負けしているというか、うまくストーリーに組みこめていない気がして単なるネタで終わってる感があるんです。なんていうかな、この設定にしたあまり明確な意図を感じないんですよね。悪く言っちゃえば、そういう下ネタ的想像を喚起させることで笑いを誘おうとしか見えないというか。しかもそれが面白いかと言えば、個人的には狙いすぎなのが見え見えで正直ちょっと萎える始末。

異能バトルとラブコメが何やらどっちつかずなのも問題です。導入は異能の部分を強調して始まるためそういった呈で読み進めましたけど、まず主人公の能力がギャグすぎてどうにも浮ついた雰囲気を感じてしまう。それだけならまだしも、作中で戦う敵の能力もなんだか適当すぎて味気ないんです。ストレングス(力が増幅する能力)とかアジリティ(素早くなる能力)って……そのまますぎるでしょ! もうちょっと捻ろうよ! 小学生が考えたんじゃないんだから!

だったらラブコメは?となりますがこれもなんだかなぁ……という印象。とにかく主人公にデレるきっかけが全体的に雑です。特に登場キャラの一人であるロリ娘は、最初主人公のイヤらしい能力をあれだけ嫌悪していたのに、新たなキャラが主人公に惹かれだしたと思いきや謎の嫉妬をしだす始末。どこで好きになったのかよく分かりません。正ヒロインに至っては、よくもまああれだけの罵倒を主人公から浴びてよく好きでいられるなと感心します。色々な経緯があって、ヒロイン的にはそういった罵詈雑言も愛情の裏返しと受け止められているのですが、正直主人公の頭悪い発言が多すぎて読んでて気分良くないのが問題です。

結局バトルとラブコメどっちを読ませたいのかよく分からないんですよね。主人公の変態能力を一本の軸として読ませるには異能バトルとしては弱いし、ラブコメはラブコメで「ハーレム作りましたどうぞブヒって下さい!」という狙いが透けてあざとい。どちらも粗けりゃ作品全体も当然粗くなるわけです。発想はそこそこ面白いとは思いましたけど、正直読んでて辛かった。

総評

エロを喚起させる残念能力というアイディア自体は料理の仕方で面白くなったかもしれないという期待があったので、結果出来上がった本書に対しては正直残念な気持ちが大きいです。やはりその設定が中学生レベルのギャグネタで終わっているのが大問題。これで異能バトルが上手いこと描けていれば感心しましたが、蓋開けてみればそれ以外の能力描写にも甘さが見てとれて全体的に薄っぺらい。これに加えてラブコメも雑と来れば、もう何が何やら。変態能力の一見したネタ的面白さに頼り過ぎちゃった、というのが正直な感想です。

それにしても、ファンタジア大賞《大賞》受賞作、ですか……。厳しいことを言いますが、なぜ受賞できたのか甚だ疑問です。ネタ的には前代未聞ですけど、それが上手く生かされていたかと言えばそんなことはなかったでしょう。評価基準が斬新さを求めているのならば、正直なんだかなぁ……と思わずにはいられません。あくまで個人的な話ですが、最近《大賞》受賞作という肩書きに騙されることが多くて逆に食指が伸びなくなってきています。幸か不幸か受賞作品は知名度も上がれば求められるハードルも上がってしまう。その読者の期待に応えてくれる作品にそろそろ当たりたいという心情は贅沢なんでしょうか。何だか各レーベルの賞自体の意義について考えさせる作品でした。