スカイ・ワールド

スカイ・ワールド 01

あらすじ

『スカイワールド』――それは現代にはありふれたMMORPGの一つ。口コミでその完成度の高さが広まっていき、プレイヤーを徐々に獲得していった背景があったためか、誰もがそれ以上のものであることは疑っていなかった。

だが、あの運命の日を境に、多くの人間がその世界に幽閉された。夜寝て目覚めても、現実世界に帰ることはできなかった。そもそもどういった経緯でこの異常事態に陥ったのか、そこには誰かの思惑があったのか、何も分かっていることはない。ただ一つプレイヤーが信じるべきことは、最上層である第一軌道島アイオーンを目指すということ。“蒼穹の果て”に挑み、ゲームクリアを目指すこと。

物語は、主人公であるジュンが最下層である第八軌道島アルタリアにて、モンスターに襲われている少女・かすみと出会うところから始まる。

MMORPGを題材にする難しさ

僕は小説の中でもSFや冒険物が大好物だったりするので、とりわけライトノベルMMORPGを扱っているものも好きです。そういった嗜好の元で作品を吟味しているためか、ライトノベルでは特にオンラインゲームをベースにしたお話はよく見られるように思えます。登場キャラクターに冒険活劇を繰り広げさせるには、ゲームとの親和性も高いライトノベルという媒体においては、MMORPGというジャンルは格好の題材であるが故に引く手数多なわけです。

だからこそ、その手の物語を書くのは難しいとも言えるでしょう。先人がたくさんいる中で、如何に過去の作品にはないオリジナリティを出し読者を引き付けるか。言うは易く、行うは難し。そんな独自性のある世界観がぽんぽこ生み出せれば小説家やシナリオライターが頭を悩ませることもなくなるってものです。

僕は本書を読んでいて、どうしても『ソードアート・オンライン』が頭から離れませんでした。直近に読んだオンラインRPGモノがそれだったということもあるし、リアルの世界から隔絶されたゲーム空間で繰り広げられる物語という設定があまりに似ていたからです。今自分の意識はこの完全なるヴァーチャル空間にある中で、果たして生身の自分はどういう状態にあるのか。この世界での死はどのような意味を持つのか。脱出方法はあるのか。――設定が酷似しているが故に、描かれる物語も細部の違いを抜けばベースは限りなく似ていると言わざるを得ません。この状況で、同ジャンルの他作品と比べながら読んでしまうのはある程度仕方のないことと言わさせて下さい。

著者のMMORPGへの造詣の深さが伺える世界観

素人が下手に書くとその設定の浅さが如実に表れる――それがMMORPGですが、本書に限って言えばそれは杞憂です。節々にMMORPGをきちんと遊んだことがあるんだろうと思わせるテクニックな、あるいはマニアックな表現が見てとれて、著者である瀬尾さんのMMORPGに対する愛が感じられます。一度プレイしてみないと、オフ専の方にはヘイト管理の概念であったりPKとは何ぞやという話は理解できないものです。そういったマニアックな要素がストーリーの根幹にしっかり根付いているだけあって、作品全体に良い安定感が出ていると思います。

そこを良しとするか没個性だとするかは難しいところです。実際読んでみると本書独自の要素!みたいなものはそこまで出せていないと気付きます。冒険していないというか、いやまあジャンルがジャンルだけに登場キャラは心底冒険しているんですけど、コンセプトが冒険してないっていう話。この世界での死は現実世界での死をも意味するだとか、現実世界への帰還を目指すために上層を目指す、なんてのも既に使われまくっている物語を盛り上げるための常套手段。それこそ『SAO』を思い出さずにはいられない。

でも、だからこそある程度の面白さは保障されているとも言えます。料理で言えばカレーみたいなものです。様々なスパイスを配合して作られたインドカレーは独自性があって当然美味いんだけれど、カレーって食べ物は不思議なものでレトルトでも十分食えたりする。そういったズルイ万能性があったりする。でも、それこそがカレーの魅力であり老若男女問わず受ける所以。

そういった万能性がMMORPGというジャンルにはあります。カレーの話じゃないよw 無論世界観のコンセプトが明確で、冒険物語としての下地がキチンと出来ているのが前提ですが、それが本書ではちゃんと出来ている。あとはストーリーの展開とか、キャラクターの設定とか、著者の文章力がどこまで冒険のワクワクを描き切れているかという話なだけで。地に足が付いているって素晴らしいことです。

女性キャラクターの魅力

ヒロインであるかすみに対しては、最初はそこまで存在感がなくパッとしない印象を受けていました。が、もう片方のエリが割とギャーギャーうるさい方なのでバランス的にはこれでいいのかなとも思えます。それに読み終えて後々かすみの性格を今一度咀嚼してみると、お嬢様キャラで世間知らずだけど主人公に一途って、ああ……ベタだけど悪くないじゃん……MMORPGという広大な世界を共にする伴侶としては最高じゃん……とw しかも余りある巨乳! ムードメーカーにエリ(貧乳)がいることで色々な意味で均整がとれています。

ていうか気付いたんですけど、本書には主人公を除いて男キャラがほとんど出てきません。ていうか一人でもいたっけ?ってレベル。ドキッ☆女だらけのオンラインRPGなんて言われても否定できないですねw キャラのバリエーション的に若干の寂しさも感じますが、シリーズ化を念頭に置いて書かれたものですからそういった幅の出し方は次以降に期待するべきなんでしょう。

総評

MMORPGモノとしては可もなく不可もなくといった出来。本書独自のオリジナリティ要素を強く求める人には肩透かしな内容かもしれません。しかし根がしっかりしているだけあってある程度読者の興味を引きつつ読ませる力があり、それに伴って我々の冒険心を煽ってくれる巧みさは見事です。謎の少女アリスや親友であるカイの存在が物語に一癖つけていて、個人的に『SAO』とは違った展開になってくれることを期待しています。

MMORPGの面白さを純粋に突き詰めた結果生まれた安定感は評価されるべき点です。ただ繰り返しになりますが、そこから特出したものを見い出すには1巻では今のところ難しい。新シリーズということで今後どのようにも化ける可能性は秘めており、そういった原石を発見できたのは個人的には収穫です。この世界を生きるも殺すも著者次第。ヒロインを始めとした女性キャラは悪くないと感じたので、恋愛要素含めて面白い方向に持っていってくれればなと思います。

スカイ・ワールド (富士見ファンタジア文庫)

スカイ・ワールド (富士見ファンタジア文庫)