パンドラの塔 君のもとへ帰るまで

積みゲーをこのGWに消化して今更だけどちゃんと感想書いておこうシリーズ。

Wiiリモコン+ヌンチャクで遊ぶアクションRPGの楽しさ

まず前提として、僕はあまりWiiで遊んでいません。ちゃんとプレイしたソフトといえば『モンハン3』や『スマブラX』、『ドンキーコング リターンズ』ぐらいで、アクションRPGに至っては『ゼルダ』すらプレイしていない始末。だから、ヌンチャクを使用する機会はほとんどありませんでした。

そういう人間が今作をプレイして第一に抱いた感想としましては、Wiiリモコンとヌンチャクを組み合わせてプレイするアクションRPGはとてつもなく面白いということです。……はい、今更ですね。今更すぎてあくびが出てきますね!w しかしながら、そういった独自の面白さを内包していながらもその魅力を伝えきれていなかったのがWiiというハードの誤算だった気もしますけど、それはまた別の話。今は『パンドラの塔』についてなのです。

面白いと思った最大の要因は、既存のコントローラでは実現できない謎解きやボスの攻略方法が出てくることで、そこに多彩なバリエーションを生みだしている点です。今までの操作系統に加えて、Wiiリモコン+ヌンチャクによる「照準を合わせる」、「振る」などといった新たな操作を盛り込むことで、プレイヤーに与えられた選択肢は広がっています。それらを取捨選択することでゲームを進めていくのは、単純に幅が広がった楽しさ、そしてゲーム自体の奥深さに一役買っているために新鮮な遊びを提供できていると感じました。

例えばチェーン(鎖)アクション。これは今作の見所の一つで、『ゼルダの伝説』でいえばフックショット、近年の他のゲームでいえば『キャッスルヴァニア』の鎖や『デビルメイクライ4』の悪魔の右腕に通ずるもの。これは敵を倒す時にもボス戦にも使われるし、謎解きには必須のツールです。その自由度は非常に高く、高いところに登るためのフックショット的使い方から、敵を引き寄せるなど戦闘の用途として欠かせない悪魔の右腕的役割も果たすまさに鎖系統の武器としては決定版ともいえる万能ツールです。こいつがプレイ当初はなかなか複雑で取っつきにくいイメージを抱かせますが、丁寧なチュートリアルが用意されていることもあってか誰でも徐々に馴染むような使い心地を実現しており、最終的にWiiリモコン+ヌンチャクによる直観的な操作だからこそ生まれたプレイ感覚の妙に気付かされます。

個人的に特に面白いと感じたのはボス戦。攻略方法を模索する楽しさ、HPを削って次第に激しくなっていくボスの攻撃による緊張感などアクションRPGの基本はキチンと抑えながら、Wiiリモコンで狙って振ってと新系統の操作を駆使させるのは何よりも新鮮な体験でした。難易度も決して理不尽なものではなく、攻略方法さえ掴めばクリアが見えてくるバランスは開発陣の手腕が光っていたと思います。……まあWiiにわかな僕だからこそここまで楽しめたというところもありますけども、客観的に見てもゲームとしての完成度は高かったんじゃないかと、そこは念を押しておきたいところです。

獣化するヒロインがストレスにならない、むしろ保護欲をかき立てる演出の巧妙さ

かなり挑戦的なシステムだとは思いました。どんなゲームにおいても時間制限を設けるのはストレスを感じさせる危険と隣り合わせです。しかし、今作はこのストレスを感じさせてしまうところをヒロインへの保護欲をもってして全く別の感情へと昇華させています。それは、言うならば「愛する新妻のために早く家に帰りたい」という帰宅欲……もっとストレートに言えば1秒でも早く彼女の元に帰ってあげたいという“愛”にほかなりません!

順を追って説明しましょう。まず一つ目、これはヒロインとの仲がエンディングに影響するということです。今作にはアドベンチャー的要素として好感度が存在し、これは積極的にヒロインに対して話しかけたりプレゼントをあげたりすることで上下します。獣化すると好感度が下がってしまうというところもポイントで、ヒロインとの仲を深めたい場合は必然的にまめに気にかけていなければならないのです。

次に二つ目は、塔の探索に疲れた身体に芯から染み渡るような、新婚生活を彷彿とさせる甘酸っぱい生活があること。ヒロインであるセレスは主人公が探索に出かけている間、ボケーッと立ちつくしているわけではありません。料理に挑戦する様、掃除をしている様、主人公のために書物を解読する様、色んなことに従事している彼女の姿がそこにはあります。そして、それがとても獣化という恐ろしい病を背負ったことを感じさせないのがまた悲劇的で、そんな状況でも主人公に献身的に尽くす様には心打たれること必至。ここではプレゼントしたものが視覚的にもちゃんと反映されるのがポイントで、例えば布をあげればそれはテーブルクロスとして使われたり、服をあげれば嬉しそうな笑顔と共に着用してくれます。こんな健気でかわいらしい彼女が獣化してしまうなんて、現実とは何とも残酷か。男として、こんな彼女をほっとけますか? 無理ですよ、守りたくなるんですよ、保護欲を刺激されないわけがないんですよ!

最後に三つ目、これが決定的ともいえますが、獣化が進んでしまった時の罪悪感のヤバさが半端ないという点です。獣化の進行度は画面上に表示されていて、基本的にはゲージが全てなくならない限りゲームオーバーにはなりません。しかしながら、ゲージが半分以下になってくると獣化は徐々に進んでいきセレスの体を蝕み始めます。例えば四分の一を残して帰宅すると、そこには一部分だけ触手が生えてしまった彼女がいますし、これが残り僅かのラインで帰宅しようものなら……。これは是非一度見て欲しい演出なんですが、かなりショッキングな内容で人によっては直視できないものかもしれません。でも、だからこそ目をそらさないで欲しいし、それでも気丈に振る舞う彼女の心境を汲み取って上げて欲しいと思います。

これらの要素が絡み合うことでプレイヤーに獣化ゲージの進行をストレスと感じさせず、むしろ「定期的に様子を見ていたい」という心境に至らせているのは見事というほかにありません。塔を探索している時も、たまに主人公の帰りを待つセレスの様子を写したカットシーンが挿入されたりして帰宅を煽ります。それでも帰宅を強要しないのがまたユーザーフレンドリーな点で、そのさじをプレイヤーに委ねているのもよく考えられているなと感じました。

ストーリーの見せ方の上手さ

今作は導入部分で特に世界観の説明等がなく、いきなり半獣化しているヒロインと謎のばあさんと共に塔を目指すシーンからスタートします。塔を目指す理由は? その経緯は何だったのか? これらの説明が意図的に省かれていることによって先が気になる仕掛けが施されており、塔を次々にクリアしていくことで段々とここに至るそのプロセスが明かされていきます。また、塔自体の存在意義に関しても塔内の書物を解読することで徐々に全貌が見えてくるようになっており、プレイヤーのモチベーション刺激してくれます。

このようにムービーで多くを語らず、シナリオ部分の解明にゲームプレイの余地を与えていることには好感が持てました。何より置いてけぼり感が少ないし、単純にゲームを楽しめる時間が増えているのがイイです。昔のゲームでは当たり前に出来ていたことなんですけどね。

あとちょこっとネタバレ気味ですが、各塔にいるボスがただの異形の怪物で済まされていないのも味があって好感触でした。それぞれにサイドストーリー、とまでは言えませんが、ちょっとしたバックグラウンドストーリーが用意されていて、今作独自の世界観構築に一役買っていたと思います。ミステリアスな雰囲気に拍車をかける演出は、プレイヤーの没入感を高めるにはいいスパイスでしょう。

総評

Wiiリモコンならでの操作で楽しめる良質なアクションRPGというのはもちろん、獣化するヒロインを始めとするライトなホラーテイストを内包した、昨今の任天堂ハードで発売されるゲームとしては珍しい独特な世界観が目に付く挑戦的な作品です。何よりも評価されるべきなのは、時間制限という概念をゲーム全体に取り入れながらもストレスフリーを実現し、逆にヒロインへの愛おしさをこれでもかと高めている点。獣化という病を背負いながらもそれを感じさせない普段の彼女の振る舞いにはかなり来るものがあり、愛以上の名状しがたい何かを感じてしまう僕は入れ込みすぎなんでしょうか。

どちらにしても、多くの人に遊んでみて欲しい作品ということに変わりはありません。アクションRPGならば『ゼルダの伝説』を遊べば十分という意見には全面的に同意しますが、今作の見所はその圧倒的なオリジナリティです。だから一口でアクションRPGと区分してしまうのは危険、というよりも勿体なさすぎます。ジャンルは同じといえど『ゼルダ』とは線引きするべき作品でしょう。

ただ、ここでちょっと脱線しますが、そもそも論としてWiiリモコンで遊ぶのが疲れるしダルいと思ってしまうゲーマーは比較的多い、という問題は結構根強いところです。既存のコントローラで遊び慣れている人ほど顕著で、そこには僕も含まれるところなんですが、やはりボタン操作が基本とされるデバイスで様々な名作を遊んできた手前無意識下で保守的になってしまいがち。それは自然なことだし、そもそも現在のボタンコントローラを生み出したのは他ならぬ任天堂なわけで、ある意味で我々のような人種ほど任天堂を愛している人間はいないという見方もできます。でも、でもですよ、それって余りに勿体ないことだと思いませんか? モーションセンサーコントローラが標準とされたハードってとても貴重で、後発で出てくる周辺機器とはその意味することは全く違う。これが基準とされているからこそ生み出される独自のゲームは多々あり、そういったプレイ感覚のふり幅を広げた功績は相当なものだと僕は思います。

だから、とりあえずちょっとでもいいから遊んでみて欲しい。少しの間でいいからWiiへのネガティブな先入観を捨てて欲しいと願います。アクションRPGアクションRPGでも、既存の作品とはまた毛色の違う新しい面白さを提供してくれる、それが『パンドラの塔』だと僕は思うんです。百聞は一見に如かず、一度手に取ってみることをおススメします。

パンドラの塔 君のもとへ帰るまで - Wii

パンドラの塔 君のもとへ帰るまで - Wii