ブラック・ブレット (3) 炎による世界の破滅

2巻の感想書いてねえし……だらしねえし……

あらすじ

見回り中の自衛隊員が見たのはあり得ないものだった。

モノリスが発する磁気はガストレアを衰弱させる力があるため、本来ガストレアがモノリスの内側に入り込めることはあり得ない。だが、それは確かに内側にいた。地上50メートルほどの高さに張り付いた圧倒的異様をを放つ巨大な存在、ステージIV・アルデバラン

アルデバラン出現と同時にモノリスに異変が生じる。10年という長い年月をガストレアの脅威から守ってきた人類の作りし壁、そこに謎の白化現象が起こる。政府は緊急対策会議を開き、事態の究明に努めた。そして、突きつけられた現実に一同は言葉を失う。

白化現象はアルデバランのバラニウム侵食液が原因であることが判明。白化現象が全体に行き渡るまでには一週間。その瞬間モノリスは磁場発生能力を完全に失い、のちに倒壊する。

それは、あと一週間という僅かな時間のうちに東京エリア壊滅が始まることを意味していた。

ストーリー、構成、挿絵と全てにおいて「圧巻」の一言に尽きる

なにこれ、マジでなんなの? やばいよ、本気でやばいよ、面白すぎるよ! 運動不足を解消すべくジムで無理やり5キロ走って死ぬほど疲れた自分に絶望してフィジカルもメンタルも疲れきっていたのに23時くらいから読み始めたら止まらなくて結局寝たの4時前とかだったってくらい面白かったよ!!!

やべーブラックブレットやべーよ……早くも続刊欲してるよ……待てないよ……

何がヤバいってまずはその読者を掴んで離さない物語構成の圧倒的な巧妙さです。導入は上のあらすじの通りで、本来モノリス内に入ることができるはずのないガストレア、それもステージIVという非常に強力な戦闘力を有するものが、特に人を襲うわけでもなくモノリスにベッタリ張り付きそのまま逃走する。なぜやつはモノリスの発する磁気を突破できたのか? 人を襲うこともなく逃げたのは理由があるのか? そしてやつが飛び立った後に起こったモノリス白化現象はなんなのか? 様々な疑問を残しつつ、そこで唯一判明したのはモノリスが遠からず崩壊してしまうこと、すなわち人類の存亡の危機だということ。

なんだこの掴みの良さは。ヤバい、人類もヤバければ僕のテンションもヤバい。

そしてここで必要とされるのはやはり民警の人々。ならず者の集まり、自衛隊からも警察からも疎まれる存在、だがしかし対ガストレアのエキスパートである彼らはこの崩壊を防ぐキーであるというジレンマに、政府は応援を求めるしかない。聖天子も例外ではなく、彼女が最も信頼を置く民警に協力を仰ぐ。それは、聖天子殺人を見事未然に阻止した里見蓮太郎にほかならない。

なにこの流れ。ヤバい、アツすぎてヤバい。最近夜は冷えるけどそんなのお構いなしにアツくてヤバい。

そんな混乱の最中、あってはいけないことが起こってしまう。「呪われた子供たち」による一般人の殺害。高まる差別運動と東京崩壊が差し迫っている事実のせめぎ合い。事態は混乱を極め、治安の悪化は深刻化し、東京エリアは空前絶後のカオスと化す。そんな状況だからこそ蓮太郎は奮い立ち、「アジュバンド(徒党)」を結成するために仲間集めに奔走する。様々な強敵たちと出会い、分かち合い、生きるため、東京を守るため、この幸せを壊させないために戦う。それと同時に、徐々に判明していくガストレアの起源。超高セキュリティーに守られた動画に映ったこの世のものとは思えないショッキングな映像。今までは知ることのなかった見え隠れする陰謀。

次が最終巻なんじゃないかと思わせるほどのクライマックスぶり。人類最後の戦い的様相を呈していて盛り上がりっぷりがヤバい。これで盛り上がらずしてだったらお前は何読んで盛り上がるというのか。

そして極めつけは終わり方。 そこで終わるのかよおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!! その引っ張り方は反則すぎるだろうがあああああああああああああああああああああああああ!!! ああ、そんな殺生な……寸止めプレイ求めてなかったですたい……生き地獄ってこういうことですたい……

挿絵も見事の一言。一巻からそのクオリティーの高さ、安定感には定評がありましたけど、今回さらに絵自体の質にしても選ばれているシーンのセンスにしても磨きがかかっていると思います。カラーページの色使いも注目すべきところで、青空教室の解放感溢れる平和的シーンと、転じて見開き1ページ目の赤みがかった色彩で描かれる公園の不穏さを感じさせるシーンが生み出す圧倒的ギャップ。巻頭の絵から読者の関心を掴んで離さない構成は見事の一言。計算され尽くされていそうで逆にこわい、神崎紫電鵜飼沙樹がただひたすらこわい、ヤバい。

呪われた子供たちの因果な立ち位置が本当にやりきれない

1巻から描かれている「呪われた子供たち」への差別は今回限界に達します。それは、元々あった差別意識に、火に油を注ぐような形で「呪われた子供たちによる一般人の殺害事件」が発生したことにより導かれることなのですが、実はその事件に関して真相は闇に包まれたままだったりするんです。それでも「奪われた世代」がここぞとばかりに彼女たちを糾弾するのは、ガストレアに対する怒りの矛先を向ける格好の対象であるというのはもちろん、何より心のうちで彼女たちに対して恐怖を感じているから。

彼らは彼女たちの赤い目が怖いんです。人間離れした運動能力が怖くて怖くて仕方ないんです。だから、自分の家族、友人、恋人を奪ったガストレアそのものとあまりに酷似する彼女たちを弾圧する。見た目は幼い女の子でも、その存在を許すことはできない。

それを痛いほど知っている蓮太郎ですが、彼は青空教室を通して改めてそういった思想の横暴さに気付きます。彼女たちは本当に無垢で、純粋で、ガストレアウィルスを宿してはいてもその実は人間と何一つ変わらない心を持った存在であると、生徒たちを見て彼は思うのです。

蓮太郎は目を開けると、自分の生徒を順番に見る。
「一人の『奪われた世代』がやった犯罪は、その人間一人の責任で裁かれるが、一人の『呪われた子供たち』がやった犯罪は、お前たち全員に跳ね返ってくる。そのことを、お前たちにも知っておいて欲しい。人間は、生まれながらにして平等なんかじゃない」
「じゃあ……」
かすれた声が聞こえて、生徒の一人が震えながら問うてくる。
「じゃあ……どうすればいいの?」
「耐えろ。そして、絶対にやり返そうなんて考えんな。いまは、お前たちは、ただひたすら耐えなきゃいけない時期にあると、俺は思う。自分に配られた手札がどんだけ悪くても、その中から役を作って上手にアガらなきゃいけない。お前たちも同じだ」


ブラック・ブレット3 炎による世界の破滅 / 神崎紫電 / 222〜223ページより

厳しい現実を齢10そこらの少女にあえて突き付けたのは、何より彼女たちの身を案じた結果です。この言葉は特に印象的でした。ガストレアに両親を殺されながらも、延珠やティナ、生徒たちを通して育まれた彼女たちへの情愛は、腐った世の中を照らす一縷の光のようでとても温かいものを感じることができ、故に僕はこの青空教室の場面がとても好きです。

こういった「断固弾圧!」とかその逆の思想が入り混じった社会性は本書の見所の一つで、物語をさらに濃密なものにさせているという意味でも素晴らしく、没入感を高める著者の技巧が如何なく発揮されているところだと思います。人間のエゴ、呪われた子供たちの業の深さには誇張が感じられずとてもリアルで、ラノベの中でも群を抜く濃い世界観であると言えるでしょう。

総評

いやーヤバかった、3巻ヤバすぎた。今回文章見てもらっても分かる通りかなり感情的にというか、思いついたまま書きなぐった感じなので色々とテンションおかしいですが、それだけ僕の感情も高ぶっていた、つまりこの圧倒的な面白さを伝えるにはとてもじゃないけど冷静でいられなかったと解釈していただければと思います。

2巻の感想を読了直後に書かなかったのが個人的に悔やんでいる点なんですが、それほどにこのシリーズは巻を増すごとに面白くなっていると僕は感じます。元々バトルの描写や登場人物のキャラ付けも上手い作家さんだとは思っていました。でもそれがここにきて更なる進化を遂げてきているというか、読者の興味のツボを知り尽くしたかのようなテンポの良い展開と、絶妙なバランスでもたらされる伏線、そして何より物語全体のアツさが融合することで、バトル物としてはそんじゃそこらの作品では太刀打ちできないレベルに達しています。また「呪われた子供たち」の悲しい性などが根底に根付いていることで、生臭い社会性を描いているのも物語にリアリティーを持たせ、本書の独自性を際立たせています。

見事、見事と言うほかにありません。こんなにも熱中して読ませてくれるバトル物は久々です。終わり方が卑怯すぎるので、ただひたすら続刊が早急に発売されることを願います。