木崎くんと呼ばないで!

GA文庫大賞《奨励賞》受賞作

あらすじ

私立白台学園には3人の人気者がいた。その美しすぎる容姿から「宮様、宮姉様」と呼ばれそれぞれ異性に絶大な人気を誇る灘宮姉弟。そして、女でありながらもその男前な雰囲気が男女問わず魅力的と言わしめるジャージがトレードマークな通称「ジャー様」。本名、木崎湧。

ある時、学園に通うタクは、木崎が宮様の下駄箱にラブレターを入れようとする姿を目撃してしまう。その男勝りな佇まいに恋愛遍歴を感じさせない木崎に対して直感的に不安を感じ取ったタクは、彼女のためにもラブレターを無理やり改めずにはいられなかった。そしてその懸念通り、中身は果たし上もかくやといった男らしさに溢れていて、彼を絶句させることとなる。

そこでタクは決意する。俺が木崎を女の子にしてやると。宮様と並んでも恥ずかしくない乙女に仕立て上げてやると。

物語の展開に無理がある

まず初めに注意です。おそらく批判しかしません。読んで気にいったという人は全力で見ないことをおススメします。もし間違って見てしまった場合も、あくまで一つの意見として流してくれればと思います。

さて、色々言いたいことはありますが強く感じたことをまず一つ。とりあえず物語の展開に無理がありすぎです。それを決定的に感じさせたのが、木崎が乙女修行を果たして周りの人間からとんでもない美少女だと認識されるシーン。タクとのデートを始めとした乙女修行を通して徐々に女の子らしさを身につけていったというところまでは良しとしても、ジャー様なんて呼ばれていた木崎が制服を着ようとも見向きもしなかった男たちが、その乙女修行とやらで途端に態度を変え「木崎さん!」なんて呼んだりデートにまで誘おうとするのはおかしくないですか? 木崎の素材が良かったのならば、普段のジャージ姿から制服姿にランクアップした時点で多くの人間が気付くべき事実だと思うんですけど。それがギャルゲーを通した教育や一度のデートで認識を180度改めさせるほどの女の子らしさを生み出すなんてあまりに現実離れしているし、説得力がない。周りの態度の豹変ぶりがご都合主義を感じさせすぎて、読者が内容についていけません。

それから、この時点でタクと宮様の仲が唐突に上昇していることに関して特に描写がないのも甘さを感じさせるポイントです。特に距離が縮まるエピソードがないまま章を跨ぐと二人は親友同士になっているんですけど、さすがにそれはちょっとやり過ぎじゃないですか? 元はと言えば木崎のために情報収集がてら接近を試みた相手に対して、急に距離感を変えられると読者としてもその変化についていきづらいし、またしても説得力に乏しいため妙な違和感が発生してとても気持ちが悪い。

そして極めつけは最後の告白シーン。詳細はネタバレになるので割愛しますが、色々とあり得なさすぎです。なぜ主人公はそこでそんな行動に出るんですか? まだ事態が確定していない時点でそれは早とちりもいいところじゃないですか? 別に彼らはこの時点ではそこまで悪いことをしてないはずだし、八つ当たりが酷過ぎて読者の理解を超えています。結局物語の展開的に木崎とタクをくっつけたいからそんな流れにしたのかとこれまたご都合主義をひどく感じさせ、めちゃくちゃ萎えました。

根本的にキャラクターが気持ち悪い

ごめんなさい、もう悪口みたいになってますけど許して下さい。そう感じてしまったものは仕方がない。

まず主人公が生理的に受け付けませんでした。「ギャルゲー好きの非リア、しかし幼馴染持ちやらオタ美少女友達やら妹やらに囲まれている」というコテコテな設定にも言いたいところはありますが、そこを百歩譲るとしても、セリフ回しとか上手いこと言ってやったぜ的描写が寒過ぎ且つ気持ち悪いんです。これって結局は著者の方の文章と僕の感性が全く合わなかったという話なだけだとは分かっています。だからこそ好き勝手言わさせてもらいますが、全体的に上から目線というか、木崎に対しても「全く世話がかかるな……せっかくの日曜日だけどお前のためだし仕方ないからデート付き合ってやるよ」みたいな妙に達観した様が鼻に付いて本当に無理でした。いやだってお前ギャルゲー好きの非リアなんでしょ? その態度おかしくね? せっかくの日曜日とか言ってないで素直に美少女とデートできるんだから喜んでおけばよくね?

あと「LOVE」と「LIKE」のくだり! これはもう僕にはクリティカルヒットでしたよ……ただでさえ嫌悪感を抱いていた主人公が上手いこと言ってやったぜ的独白をするのは道民も驚きの氷点下ぶりでした。そういうの本当にいらないです。そんなポエム考えてる暇あったら物語を少しでも面白くすることに力を注いで下さい。

やばいな……いよいよ罵詈雑言的な様相を呈してきたぞ……でもまだ言いたいことがあるので続けますぞ……。

ネーナというキャラクター。ヒロインという位置付けではなく、主人公のギャルゲー好きを補足するために存在しているようなオタ趣味持ちのご都合主義全開なキャラクターですが、とにかく喋り方が気持ち悪い。普通に日本語喋ってるし物語に深く関わることもないしで交換留学生という設定を生かされることが1mmもなく、取って付けたように語尾に「デス」と付けて無駄に電波をまき散らすだけの存在にしか思えませんでした。実際大したことしてないしこの人いる必要性ありましたかね? 風呂上がりのサービスシーンのイラストだけのために無理やり作られたキャラクターとまで邪推してしまうんですけど。

多分、普段だったらちょっとひどいと思ってもここまで言うことないんですよね。ただなんて言うかな、本書の場合はとにかくキャラ付けがベタであざとくて見ていられず、加えてキザな言い回しが下手に鼻に付いて、絶望的に僕の好みと合っていなかったのが原因だったんだと思います。読み終わった後は、違う意味でもの凄い達成感を感じたし……。

総評

何だかまだまだ言い足りないことがあった気がするんですが、これ以上言っても批判しか出てこない気がするのでここら辺で締めることにします。

とにかく物語の構成にしても登場人物のキャラ付けにしてもご都合主義という壁が幾度となく立ちはだかり、読者を置いてけぼりにしながら凡庸とも言えない物語が延々垂れ流されます。それだけならまだしも、嫌悪感を抱かせる人には抱かせてしまう主人公のキャラやセリフ回しは聞くに堪えない代物で、著者の表現しようとしているもの全てが僕の好みとは見事と言っていいほど裏目に出る始末でした。

乙女育成系ラブコメなんて謳い文句もありますが、とんでもない。あれが育成ですって?? ギャルゲーから得た知識による教育でモテモテなんて超展開もいいところです。萌えも感じられるところが薄く、ラブコメを名乗るには全てが軽すぎます。

唯一良かったところを挙げるとすれば、みけおう氏による可愛らしいイラストでしょうか。ただそれも、木崎は本来小ぶりのおっぱいと書かれているのにイラストではネーナに張る巨乳ぶりに描かれていて違和感マックスだったわけですけど……。加えて男前な前半と女の子らしくなった後半の描き分けも出来ていないところが余計にクラスメイトの態度の変わりようを異様に感じさせ、残念でなりませんでした。

……ああ、遂に★一つを付ける日が来てしまったか。一体審査員は本書のどこを見て奨励したのか……もうGA文庫大賞はいよいよ信じることができなくなりそうです。もうこの方の作品を読むことはないかもしれませんが、大きなお世話だと思いますけど表現者としてこれに満足せず面白いものを追い求めて欲しいと思います。

木崎くんと呼ばないで! (GA文庫)

木崎くんと呼ばないで! (GA文庫)