ダンガンロンパ 希望の学園と絶望の高校生

というわけで『ダンガンロンパ』なのでございます。今更感は多少ありますが、続編が7月に発売するということで6月のAVGラッシュに続く締めの一本としてとても期待しています。だからその前に1作目の感想をきちんと書いて脳内を整理しておこうかなと、そんな魂胆なわけです。

アドベンチャーゲームといえば、

基本的にはテキストを読み進めていき途中で提示される選択肢を選び物語を進めるというのが一般的ですが、昨今のゲーム市場ではそんな古臭いゲームは間違いなく埋もれてしまいます。元々「AVGないしADV」というジャンルはそこまで人気があるわけではありません。RPGやアクションがミリオンヒットを記録するなど盛り上がりの様相を呈しているその裏で、アドベンチャーはひっそりと根強いファンに支えられている言わば“陰”のゲームジャンル。嘆かわしいことですがこれが現実なのです。

だから、という直接的な因果関係があるからなのかは分かりませんが、AVGがもっと陽の目を浴びるためにもということで意欲的な挑戦が光る作品は増えつつあります。AVG屋ともいえる5pb.はギャルゲーはもちろん、『シュタインズゲート』を始めとした「科学アドベンチャー」シリーズで360市場に殴り込みにかかりましたし、それが今ではアニメ化を経てPSハードにも移植されここ2〜3年で最も売れたAVGとしてゲーマーの記憶に刷り込まれることとなりました。メーカーの試行錯誤の末に、徐々にAVG復権を取り戻しつつあるのかもしれない、そんな期待をファンに抱かせてくれているのが現在のゲーム業界と言えましょう。

そこで、同じく意欲的な作品として異例のヒットを飛ばしたのがスパイク渾身のAVGダンガンロンパ』なわけです。

意欲的なシステムと一口で言っても

その定義は正直曖昧なところでありますが、例えば『シュタゲ』なら「フォーントリガー」、『逆転裁判』なら「法廷パート」といったように過去に例のない斬新なシステムとここでは定義づけします。その上で考えると、『ダンガンロンパ』における意欲的なシステムとはやはり「学級裁判」となるでしょう。

見た感じ「法廷パート」とかなり似た部分も見受けられる「学級裁判」ですが、ここで「学級裁判」を唯一無二とするのが“アクション要素”の存在です。

プレイヤーは学級裁判において、相手の矛盾を指摘したり圧倒的閃きを必要とさせるシーンでは、証拠や証言を「弾丸(ダンガン)」として装填し、相手のセリフなどにシューティングよろしく狙い撃ちしなければなりません。この間議論は常に流動的に動き続けるため、様々な偽装セリフの中に紛れ混んだ指摘しなければならないセリフは待ってくれない。思考を巡らせなければならない状況下に矛盾を指摘するためのシューティング要素が合わさることによって、プレイヤーは推理力や判断力のみならず、反射神経や即断する力が求められることとなります。

こうした要素がゲームに瞬発力をもたらし、「学級裁判」というキモともいえる場面においては間違ってもプレイヤーを退屈させることはありません。プレイヤー自身が議論に参加している空気が十分に感じられ、そうしたプレイの末に物語の真相が氷解していくのは今作独自の爽快感を感じさせました。

さて、『ダンガンロンパ』を『ダンガンロンパ』たらしめる要素は

なにもシステム面だけにあるわけではなく、もっと分かりやすい部分にも見て取れることを書いておかなければならないでしょう。

それはなにかといえば、キャラクターデザインを始めとした世界観にほかなりません。

「ポップでサイコ」という言葉は今作を形容する上で最も適したものであると言えそうです。その中でポップさを一番に感じるのはキャラデザ、そしてその絵の見せ方。論より証拠、キャラデザに関しては公式サイトなりで見ていただくのが最も手っ取り早いでしょう。そうした見た目はもちろん、これらのデザインには彼らの「超高校生級」たるタレント性から滲み出る圧倒的個性がそこかしこに感じられ、一癖も二癖もある性格が見事に描き出されているように思えます。これに豪華声優による演技が加わることで彼らのキャラクター性は確固たるものとなり、物語をこれでもかと盛り上げてくれるのです。

「見せ方」とは、これはアート的見地からの物言いとなる部分がありますが、例えばキャラの立ち絵にしても背景にしてもそれらがとても凝っていて独創的なんです。学級裁判における立ち絵は、表現するなら3D空間に一枚絵が立っている言わばハリボテのような見せ方。そして探偵パートにおける背景は、“逆ドミノ”のように次々とパーツが組み合わさって部屋を構築していく演出方法。これらのアーティスティックな演出は、通信簿での美術の評価が五段階で万年「2」だった僕にもどこか芸術的であると思わせる「分かりやすさ」があり、今作独自の世界観構築に一役買っていたように思います。

これらのポップさと同居するのが「サイコ」であるというのが『ダンガンロンパ』の面白い特徴でしょう。殺人がいつ起きるのかというおどろおどろしさはプレイヤーを常に不安にさせる力があり、無骨な校内もまた恐怖を煽る立役者です。そして、そういった不安を感じさせる最上位の存在として君臨するのが、今作のマスコットキャラともいえる「モノクマ」なのです。

あの見た目で過激な発言が次々と飛び出すことに加えて、それが国民的キャラでもある「ドラえもん」の声に乗せられていることにはかなりの異様さを感じさせ、このモノクマとの対峙によってプレイヤーは『ダンガンロンパ』というゲームがどんなものであるのかを初めて知ることとなります。すなわちそれは、この希望ヶ峰学園においてはモノクマヒエラルキーのトップに君臨しているということ。そしてその圧倒的な存在感を持ってして、プレイヤーはいいように振り回される運命にあるということ。茶の間で聞いていたあの声の主は、ここでは悪役なんだと、その信じ難い状況を受け入れることで初めて真のコロシアイは始まります。

ゲーム全体を俯瞰した上で欠点らしい欠点もあるにはありますが、

それらも瑣末な問題であると感じさせるほどの面白さに満ちている、というのが僕の所感です。それほどに熱中してプレイできました。

意地悪く短所となる部分を挙げるとすれば、日常パートにおけるキャラクターへの好感度が物語本編に影響を及ぼさない点、クライマックス推理のイラストが分かりにくく理不尽、バックログの不便さなどアドベンチャーの基本システムが雑、などがあると僕は感じましたが……そういったネガティブな部分の前に、「学級裁判」の緊張感に満ちた展開や個性あふれるキャラクターの魅力が強く頭に残り、現在この感想文を書いている最中も正直どうでもいい短所だなと感じつつあります。

今作は気になった部分をネチネチと指摘するよりも意欲的な試みを褒めるべきゲームでしょう。それだけその挑戦が成功したタイトルであり、新規IPということを踏まえれば開発陣の功労はより大きいものだと思います。

総評

いやー面白かった。久々に寝る間も惜しんで日常に支障をきたすほど熱中したゲームでした。

何が面白かったってのはこの文中で説明した通り「学級裁判」の緊張感に包まれながらも推理力や即断力を必要とさせる点であったり、圧倒的な存在感を持つモノクマを始めとした個性溢れる世界観であったりといったところなんですが、最終的にクリアした後も好印象を抱き続けることができたのはシナリオ自体も良く出来ていたからなんだと思います。いまいち垢抜けない主人公が様々な殺人を目の当たりにして疲弊しながらも心を強くしていき悪に立ち向かっていくというのは、勧善懲悪というベタさを根底にしているからこそ安定感があり、何よりラストはジャンプ漫画のように熱くて痛快でした。

ゲーム音楽マニアとしてはサウンドも外せない要素でして、「ポップでサイコ」な世界観をより際立たせていた楽曲だらけだったと思います。特に感じたのは日常と非日常のギャップを上手く表現していたというか、非日常のおどろおどろしさという部分では8割方がサウンドによるところだったんじゃないでしょうか。学級裁判のスピーディな空気も複数の楽曲を鳴らすことでテンポの変化を上手く演出していましたし、そういった意味ではゲーム全体どこでも音楽の必然性を感じさせてくれて、今回の高田さんの功績はかなりのものであることが伺えます。

何はともあれ『ダンガンロンパ』、面白すぎました。この作品が口コミで売れに売れて結果10万本を超えたというのも至極納得できる話です。極めつけは続編発売決定であり、これは経営陣からも商業的に成功するタイトルだと認知させたことにほかならないわけで、ここまでの力強さを秘めた新規IPが生まれたことは素直に喜ばしいことかと思います。こういった作品をプレイして、また多くの人がアドベンチャーゲームに目を向けてくれるようになれば言うことないですね! 『ダンガンロンパ』シリーズがこれからも続いて欲しいと願う半面、開発陣には新たなAVGを作って欲しいという何とも贅沢なジレンマに悩まされつつ、とりあえずは続編である『ダンガンロンパ2』の発売までこのワクワクと共に待っていようと僕は心に刻むのでした。

ダンガンロンパ 希望の学園と絶望の高校生 PSP the Best

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