アクセル・ワールド (1) -黒雪姫の帰還-

アクセル・ワールド1 -黒雪姫の帰還-

著者の川原礫先生のデビュー作でもあり、同時に第15回電撃小説大賞にて《大賞》を受賞。デビュー前のアマチュア時代から自身のホームページにてオリジナルの小説を公開していた方のようで、その人気もまた大そうなものだそうです。正直ここまでのものを書ける人がネット上だけの活動で終始していたというのが驚きですが、今回の受賞でその実力を世間的に認知されるようになったという運びでしょうか。
《大賞》受賞作ということで読ませていただきました。

あらすじ

デブな中学生・ハルユキは今日もいじめられていた。昼休みになると毎度のようにパンを買って来いと命令される、そんな日常に嫌気がさしていた彼にとって唯一の心の拠り所が学内ローカルネット上でプレイすることのできるスカッシュゲームだった。ローカルネット上では、現実の自分ではなく自身の分身であるアバターを使うことになるため、彼は仮想空間におけるスカッシュゲーム特有の≪速さ≫を知らず知らずのうちに成長させていた。
そんな何も変わることのない日常を過ごしていた中、彼は校内一の美貌と気品を持つ少女・黒雪姫と出会う。彼女は言った。
“もっと先へ・・・≪加速≫したくはないか、少年” ―― その言葉は、彼を、加速する世界「アクセル・ワールド」へと誘った。
リアルとバーチャルで戦いを共にするハルユキと黒雪姫の加速する物語。

作中における≪加速≫とは

「ブレイン・バースト」というプログラムの機能下で起こる現象で、現実の肉体的な加速が起こるのではなくあくまで“思考と感覚”が加速し、意識が超高速で動くことを指します。その効力たるや、現実の1秒を1000倍の16分40秒にまで押し上げるほどで、分かりやすく言えば、加速中は現実の1秒間の内に16分以上もの思考時間が得られるということですね。あくまで肉体の動的変化があるわけではなく、脳内の思考に作用します。ここ重要。
この現象を引き起こすのが前述の「ブレイン・バースト」というプログラムであり、その≪速さ≫の適性を黒雪姫に見いだされたハルユキは、このプログラムを彼女からインストールしてもらいます。ここから彼の物語が始まるわけですね。
さて、こうしてハルユキは「ブレイン・バースト」プログラムを手に入れたわけでありますが、このプログラムは人の思考を加速する機能とは別にもう一つの顔を持っていました。
それは、“オンライン対戦格闘ゲーム”。
思考の加速などという非日常も甚だしいテクノロジーを応用したオンライン対戦格闘ゲーム、それが「ブレイン・バースト」というわけです。

この設定が

非常に面白く、そしてストーリーの論理性に破綻が生じることのないしっかりとしたものであるため、決して安っぽくない深みのあるシナリオに仕上げられています。
作中でも書かれている通り、「ブレイン・バースト」は1990年代後半の格ゲーブームを彷彿とさせるような無骨な作りなんですが、そのリアルな再現度が逆にゲーマーのツボを刺激してくれます。SF的世界観ということもあり小難しい単語がチラホラ出てきますが、だとしてもゲームやネットに一時でも傾倒したことのある人には楽しめる内容でしょう。かくいう僕にも大好物な内容でした。
あとは・・・そうですね。全体的にノリが熱いです、特に物語後半。前半部分が世界観の説明に終始していたのに対して、後半が格ゲー故の戦闘描写が大部分を占めるというギャップに起因してか、それとも反動なのか何なのか、熱く、激しい戦士たちの戦いが繰り広げられています。少年漫画にありそうなと言ってもいいですし、もっと言えば特撮ヒーロー的ノリって感じでしょうか。いやーいいですね、こういうのも。何だか久しぶりです。

それにしても

まさか黒雪姫がここまでかわいいとは・・・思わなんだ。
本書はヒロユキのバーストリンカーとしての戦いを描くと同時に、黒雪姫との出会いから始まるボーイミーツガール的要素を有しているのですが、それがもう何と言っていいものやら黒雪姫の魅力をドンドン引き出してくれちゃってワタクシたまらんですよ!

「ケーブル長はどれくらいだ」
突き刺さるようなオーラをまといながら詰問する黒雪姫に、ハルユキは怯えつつも答えた。
「さ・・・んじゅっせんち、です」
「・・・ふーん」
かつかつかつかつかっかっかっかっかっ。
もの凄い加速で、前方に見えてきた校門に近づいていく黒雪姫の揺れるロングヘアを、ハルユキは唖然と見送った。

なんのことだって? 俺の貧相なボキャブラリーで活字にされるより読むしかないと思うよ!

総評

《大賞》受賞作というのも納得です
「ブレイン・バースト」を介して行われる戦闘が本当に熱いですし、またデブでどうしようもない自分を嫌うハルユキが、校内一の美貌を持つ黒雪姫とラブコメするというのも痛快です。ラストが若干の予定調和的展開になったかなという気もしましたが、それも何だかどうでもいいように思わせてくれる魅力があるというのは言いすぎでしょうか。
川原礫という作家が持つ感性に惚れました。シリーズ化は決定ということで是非とも追わせていただきます。

アクセル・ワールド〈1〉黒雪姫の帰還 (電撃文庫)

アクセル・ワールド〈1〉黒雪姫の帰還 (電撃文庫)