寄生彼女サナ

寄生彼女サナ
第5回小学館ライトノベル大賞・優秀賞受賞作。毎度のこと絵がせこい!でも読んじゃうくやしい!

あらすじ

増川唐人(主人公)の腹は猛烈に痛んでいた。死をも予感させる腹痛。今までに感じたことない別次元の痛み。なんだこれは。なにか悪いものでも食べたか…

その時、今日最大の痛みが来た。同時に、信じられない光景を目にする。

腹がきちきちと音をたてて膨らみ始めたのだ。そして膨らみきった腹部が勢いよく避け、中から――とんでもない美少女が出てきた。さっきまでひも状と思われた物体は、すっかり人間の女の子に変貌していた。それもすっぽんぽんの。

日本海裂頭条虫のパラシスタンス、サナだ! 突然だが、今日からお前の腹に寄生することになった。よろしくな!」

萌えにおける寄生虫の可能性を広げた一冊

作家さんによると、

「僕のお腹の中のサナダムシが実は美少女だったよ!」

「うわ、なんか飛び出してきた! すっごいイチャイチャしてくるよ!」

「俺の寄生虫がこんなに可愛いわけがない」

やや最果てのブログ より

とありますが、まさに寸分違わずこの通りだから驚きです。何を言ってるかわからねえと思うが俺も何を読んでいたのか分からなかった。気付いたらサナダムシが超絶美少女にチェンジしていてらぶChu☆Chu!の始まりだった…とまあポルナレフはおいといて、寄生してきたサナダムシが何やら超進化を遂げたすごいやつで、腸内に寄生した本体とは別に宿主理想の容姿で分体を呼び寄せることが可能で、すっごい美少女がお腹から出てきたよ!というサナダムシマニア垂涎の寄生虫ブコメストーリーとなっています。

ひょんなことからサナダムシが寄生してしまった唐人には同情を禁じ得ないし、正直腸内に寄生虫がいるというだけで読んでいるとお腹が痛くなってきそうな内容なんですが、そんなことも全部ひっくるめて愛おしいと思ってしまうほどにこのサナという少女がかわいい! どんなにかわいくても実体は寄生虫で、サナダムシでググったらきしめんみたいなちょいグロ生物と分かって、結局正体がサナダムシという事実は覆ることがなくて。色々思うところはありますが、そんなことは二の次でどんな腹痛も我慢するから俺にも寄生してくれ!と言わしめるほどの魔力を持っていますこの子は。

まず寄生虫でありながら、栄養をいただく代わりに宿主の身を献身的に守るという、寄生虫的には風上にも置けないその姿勢がグッときますね! そしてそういった使命感に溢れながらも、ふとしたことで唐人に守られ「あれ、なんだかドキドキする…//」という女の子らしさもきちんと描いているのがグッド! 極めつけは、宿主とご飯の味を共有するためには手を繋がなければいけないというその設定! なんだその都合のいいけしからん設定は! 公共の場で見かけた日には殺意が沸く光景ですよ! でも「こいつ寄生虫だから触れあってないと味わかんねえんだよ…」とか言われたら逆に残念すぎて何だか許してしまいそうな不思議! すごいぞ寄生虫! なんだか凄い可能性を秘めていたぞ!

寄生は寄生でも女の子が一人暮らしの男の家に転がり込むとかそんな生ぬるいものじゃなく、マジモンの寄生虫でした!というのは新機軸すぎます。題材的に色物感は強いですが、寄生虫という設定の勢いで終わらすことなくその設定をしっかり生かして物語に組みこめているのが印象的で、凡庸なラブコメに留まらせていないという意味でも成功してるんじゃないかと思います。寄生虫少女を上手にかわいく描けている作家さんの腕も大したものです。絵の力も大きいですが…まあそれは野暮というものでしょう。

身体の毒を抜く寄生虫は、人の生き様に潜む毒も抜く

本書の主人公は、本当に生きるのが下手な男です。自分が原因で人に迷惑をかけたくないから、一歩距離を置こうとする。誰とも関わらないことで、誰にも迷惑をかけず生きていくことができる。考え方自体は理解できますが、それでは逃げ続けているだけで信じてくれている人を傷つけ、何より誰も救われません。彼としては良かれと思ってやっている節もあって、それでいて迷惑をかけない存在であるが故に周囲の人ともWIN-WINな関係を築けていると勘違いしてしまう。そんな無気力少年の元で起きた寄生虫少女との邂逅は、知らず知らずのうちに彼の生き方に影響を与えることとなります。

たぶん俺たちがこの世界で生きていく限り、他者から影響を受けることは避けられなくて。
時には、不器用に傷付け合ってしまうこともあるんだろう。
傷付くことを厭うのならばそれはきっと容易い。殻に閉じこもってしまえばいいんだ。
――でも。
「サナ」
「……ん?」
「独りぼっちで生きてくのは、つらいよな」
「……うん」

独りで生きていけるやつなんていない。誰もがお互い足りないものを補い合うために自分とは違った価値観があることを認め、またそこに刺激を受けて成長し、共存していく。そんな当たり前のことに、寄生虫という言わば人と共に生きることが宿命づけられた存在と暮らすことで気付かされるというのは、ある意味必然とも言えます。

ただ、ここで効いてくるのがサナは寄生するその対価として宿主を守ることを信条にしているという事実です。彼女は進化の過程で意識が芽生えた故に、寄生虫としてあり得ない、本能に真っ向から背く決断をします。これは、サナもまた、唐人に寄生することで影響を受けていたという証明になるんでしょうね。悲しいすれ違いが生まれるのは人の世の常ですが、同時にそれを乗り越えた時に温かいものがあると信じることができれば、人は一歩勇気が出せるんだと思います。

寄生虫少女にブヒるだけの作品だと思っていたけど、とんでもない。意外に深いテーマがあって、誰にも寄生しない男が寄生虫に寄生されて変わっていくというお話は、ちょっと変だけれど心温まります。

総評

いいですね。僕は凄い好きな作品です。『寄生少女サナ』というタイトルに決して名前負けせず、サナ自身がとてもかわいらしく描かれており、ギャグもセンスが良く笑えてラブコメとしていい具合に完成されていると思います。たまに、かわいいかわいい言ってるヒロインがサナダムシであることを思い出しそうになりますが、それがもはや瑣末なことでしかないと意識の隅に追いやる力が働くというのは何か魔力じみたものがあるんですかねこれは。まあ何かもうサナダムシでも何でもいいんだけどね!

下ネタが暴走する従妹や巫女服をまとった生徒会長など、まだまだ突っ込んでいけそうなネタも多いため是非次も出て欲しいもんですがどうなんでしょう。さすがに優秀賞ならシリーズ化するのかな。個人的にガガガ文庫は当たり外れ大きいのでこういった作品を絶やさないようにして欲しいものです。

寄生彼女サナ (ガガガ文庫)

寄生彼女サナ (ガガガ文庫)