僕と彼女のゲーム戦争 (3)

あらすじ

前回出場したJGBCから新たな部員として杉鹿まどかも加わり、勢いに乗る伊豆野宮学園現代遊戯部。

今日も彼らは別の大会に出場するため秋葉原に来ていた。その大会途中、健吾はある女の子と出会う。一度見たら忘れられないような美しい顔立ち、そして服の上から窮屈そうに主張している豊かな胸。こんな美少女の知り合いはいないはずなのに、妙な既視感を覚えるのはどういうわけなのか。これはもしかして……

「みやび、ちゃん?」

彼女は幼稚園のころ、読書という同じ趣味を共有して仲良くしていた幼馴染みだった。

コアなゲームを題材にしながらもその魅力を上手く物語に絡めている

2巻ではFPSが主とされていましたが、今回は『ガーディアンヒーローズHD』、『ファミリーフィッシング』、『エースコンバット アサルト・ホライゾン』とジャンルを絞らずバラエティ豊かなチョイスとなっています。『ファミリーフィッシング』に関してはそのタイトル通りファミリー向けでWii用ソフトですから立ち位置は微妙に異なりますが、他2タイトルに関してはコアユーザー向けソフト故にゲーマーとしてはニヤリとさせられるところですね。それにしても『ガーヒー』を選んでくる辺りはさすがというか、師走先生のゲーマーぶりが光るセンスだなぁ…と思わずにはいられないw

XBLAで配信されているアッパー移植版『ガーヒー』は画質の向上もさることながら、マルチプレイの対戦人数も最大12人と嬉しい追加要素が満載なタイトルです。この12人対戦というところが本書においてもミソで、僕の中では『スマブラ』以上にカオスな様相を呈すること請け合いな『ガーヒーHD』を上手く小説に落とし込めるのかという不安がもの凄くありました。

しかし、そんな不安も吹っ飛ばしてくれるのがこの師走トオルという人で、『ガーヒー』というタイトルの魅力を予想以上に上手く活字に起こしていたと言えましょう。

『ガーヒー』の特徴である「対戦では主人公や味方キャラはもちろん、雑魚敵からラスボスまで使用することができる」という要素は最初にキチンと説明を入れておき、そこからさらに突っ込んだ内容となる、例えば雑魚敵の代表格であるローパーや村人などを選択してしまった時の絶望感、それでも諦めずに勝つための駆け引き、だがしかしラスボスクラスの圧倒的な力の前には歯が立つわけもないといった部分を描いているのが、『ガーヒー』というタイトルの魅力を未プレイの人にも最大限伝えることに成功しており、師走先生の実プレイに裏付けられた文章構成が全体を通してとてもいい味を出していると感じました。

そして、僕がさらに感心したのは『ファミリーフィッシング』。明らかにライト向けなタイトルであり、僕もプレイしたことがないゲームです。正直に言うと、プレイしたこともないくせにライト向けというところが妙に引っかかって、ゲーム性が浅いであろうと勝手に邪推し小馬鹿にしている節すらありました。……が! が! ここがさすが師走マジックというか、そんな愚かしい僕の先入観は読み進めていくうちに霧散していったのです。先ほどの『ガーヒー』と同様に、実プレイに基づいた文章であるからこそその面白さに確かな説得力を感じられるわけですが、今回はそれ以上に、主人公である健吾を始めとしたキャラクターがとても楽しんでプレイしているのが見ていて気分がいいもので、またゲーム的にも地味と言わざるを得ない「釣り」というジャンルで起伏に富んだ物語を展開させていたのがとても印象的でした。そして今更ながら、今作が「さおコン」なるアタッチメントを同梱させるほどの意欲的なタイトルであったことに驚き、バンナムには微妙に敬意を表したい気分ですw

エースコンバット アサルト・ホライゾン』は物語終盤を飾るに相応しい戦略的な対戦が魅力で、実際ラストに向けてしっかり盛り上げる構成の妙が光っていたと思います。前回の『Halo』などが楽しめた人は問題なく楽しめる内容でしょう。『エースコンバット』シリーズもご無沙汰なので久々にプレイしたくなりましたけど、確認してみたら『アサルト・ホライゾン』は評価がメチャクチャ低いことに愕然とした……。そんなゲームでも面白そうに見せる文章能力ってそれはそれで凄いですけどね!

新キャラ「鷹三津宮美」の魅力

本書から新キャラとして登場する宮美。健吾と宮美は幼稚園時代に仲良くしていた幼馴染みという設定ですが、彼らは伊豆野宮学園入学後もちょっとした繋がりがありました。健吾がまだ入部する以前の話、図書室に毎日通っていた際、同じように図書室で本を読む女の子がいました。それが当の宮美だったわけです。それからここまで登場することはなかったけれど、一応伏線は張られていたわけだ。そして、そんな彼女もゲームをかじっていると知った健吾は彼女を現代遊戯部に勧誘するんです。でもまあそれがまさか……

「ほう、つまりやり込み型のゲーマーということか。そういうことなら控えとしてはむしろ最適かもしれないな。ちなみにどんなゲームをやりこんでるんだ? メジャーなところでモンハンとかだろうか?」
「えーと、モンハンっていうと……あ、PSOの後発ゲームのことですね?」
「……え?」「……え?」「……え?」
天道と杉鹿と、ついでに瀬名先生までもがなぜかキョトンと首を傾げた。
「ちょ、ちょっと待って。あんた……鉄拳って知ってる?」
今度は杉鹿が質問を投げかける。
「鉄拳ですか? はい、知ってますよ。バーチャファイターの後発ゲームですね?」
「で、ではグランドセフトオート3は!?」と瀬名先生。
「あ、シェンムーの後発ゲームですね?」


僕と彼女のゲーム戦争3 / 師走トオル / 101〜102ページより

こwwwwwwwwwれwwwwwwwwwwwはwwwwwwwwwwwww

なんと彼女は生粋のセガマニアだった!っておいちょっと面白すぎるだろうがw 読者的にも不意打ち気味のカミングアウトで笑わずにはいられないシーン。『モンハン』を『PSO』の後発ゲームとする無理やり感が余計にその信念の強さを感じさせるし、そもそもどのゲームもセガの後発とさせているのがどこか哀愁を漂わせていてたまりませんw 「レースゲームといえば?」という質問に『デイトナ』と答える子がいたら本気で結婚したいよw

このような衝撃的な事実が発覚しながらも、彼女のセガマニアぶりは留まることを知らないのです。それは『ファミリーフィッシング』プレイ中……

ホテルを出て木に囲まれた道を抜けると、画面一杯に白い砂浜と青い空、そしてコバルトブルーの海が広がる。
「何度見ても綺麗だなあ」
プログラムで作られたとはいえ、こうして部屋にこもっていることが残念に思えてくるほどの美しさだった。こんな綺麗な浜辺に、もし杉鹿や鷹三津と一緒に行ければどんなに楽しいことかと想像せずにはいられない。
「そうね、Xboxほどじゃないけど頑張ってる方ね」
「そうですね、ドリキャスが本気出したらもっと綺麗ですけどね」
「…………」


僕と彼女のゲーム戦争3 / 師走トオル / 133ページより

もうやめてwwwwwお腹痛いwwwwww ドリキャスとか何年前のハードを引き合いに出してるんだお前はwwwwww

そして地味にXbox好きを公言している杉鹿さん。360と比べないあたりが公平で潔く、こういった部分は宗教的な意味合いも含んでしまうので地味に気を遣っているのが伺えて好感触でした。

いやー、それにしてもたまりませんな、この宮美ちゃんって子は。今後もこの子が出てくるかと思うと楽しみで仕方ない。シリーズ通しても一番笑わせてもらったシーンでした。

ブコメ増量、八宝備仁氏によるエロ成分も増量

やはりというかなんというか、宮美も健吾に対して好意を持った女の子であり、2巻で自分の気持ちに気付き始めた杉鹿との三角関係が形成されます。2巻まではゲームプレイ描写が中心でラブコメ要素はほんのりでしたが、今回は宮美の登場という杉鹿的に波乱でしかない出来事があった以上かなり増量されて描かれていました。杉鹿という子は金髪ツインテールツンデレ(巨乳)というテンプレのような設定ですが、宮美の登場によってこの性格が上手く刺激されて本書ではとても活き活きと描かれていたと思います。僕はこの金髪ツインテールツンデレというテンプレ設定が大好物だったりするので、彼女の活躍はかなり嬉しいところでした。

こうなると気になってくるのは天道ですが、今のところ彼女が健吾に対して特別な感情を抱いている様子はありません。正ヒロインの立場かと思われますが、本書では杉鹿と宮美の台頭によりかなり存在感が薄かった印象です。魅力的なキャラクターではあるのでこのままの状態はちょっともったいない。また彼女にスポットライトが当たってくれることを望みます。

それにしても、今回も安定の八宝備仁クオリティーでしたね! 今回は見開き1ページ目の巻頭カラーのみならず、表紙にまでブラが描かれていてどんどんエスカレートしているのがわかります。物語後半ではまたしてもお約束の展開でしっかりイラストも用意されており、これが本シリーズの恒例のお楽しみ部分になったことを理解しましたw しかし、これはこの調子だといずれスカートも剥がされるのではないか……。まあ期待してこの先を見守ることにしましょう。

総評

2巻のFPSから一転、アクション、釣り、シューティングと様々なジャンルのゲームを題材にし、その魅力を見事に引き出しているシリーズの面白さはそのままに、新キャラ「鷹三津宮美」の登場でギャグもラブコメも洗練され、また一段新たな高みへと登ることに成功したシリーズ最高傑作だと僕は思います。

とにかく目に付いたのは、ゲームの面白さを最大限伝えようとする師走先生の実プレイに裏付けられた説得力のある文章、そして宮美のセガマニアという意外性抜群なキャラクターが物語を盛り上げてくれている点です。ゲームをかじっている人ならばゲーム部分は問題なく楽しめるだろうし、ギャグ部分は間違いなく笑ってしまうことでしょう。転じてゲームを普段プレイしない人でも面白さが伝わり、むしろゲームをやりたくさせる著者の軽妙な物語展開と文章構成の努力が見え、誰にでもおススメできる万能的な面白さを内包した作品であると思います。

次回は格闘ゲームということで、誰がどのような活躍を見せてくれるのか期待。これは続きが楽しみだ。